金田一 long

□2人の箱庭 : 3
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「え…?」

「何も思い出せないでしょう?」

「……………はい…。」


何も思い出せないという事実、突然言われた自分の名前と、恋人と名乗る男。
春葉は困惑するしかなく、助けを求めるように高遠を見つめる。


その瞳に高遠の胸がざわめく。
そう、この瞳に自分はあのとき惹かれたのだった。
一人の人間の全てを自分の好きなようにできるのではないかという錯覚に陥る。
その思いに信じられないほど気持ちが高鳴なるのだった。


「安心して下さい。私は貴方の恋人ですから…。貴方が記憶喪失だとしても何一つ不自由させませんよ。」


ベッドの上に座る春葉に近づき、軽く羽織っていただけの自分のワイシャツを脱ぎ、春葉の肌を隠すように覆う。

そのゆったりとした優雅な動きをぼうっとする頭で見つめていた春葉だったが、シャツから香る花の香りと、
肌に触れる布の感触に、自分が裸であることに気づいた。
気づいた瞬間、思わずかけてもらったシャツをぎゅうっと掴み、顔を赤く染めた。

「な、な、なんで裸…!」

「だから言ったではないですか。貴方の抱える記憶障害と、私が恋人だということですよ。
先ほどまであんなに熱く混じり合っていたのに、貴方が私のことを忘れてしまった証拠です。」

私の愛撫も忘れてしまったのですか?と耳元で囁かれ、そのまま軽く耳たぶを食まれる。

「…んっ…」

ねっとりと舌で春葉の耳を嬲る。
頬に添えられていた長く綺麗な指はそのまま下へと運ばれる。
羽織ったシャツをすり抜け、下着をつけていない胸に軽く手が触れる。
表面をなぞるような軽い愛撫に、情欲を感じる。
目の前には高遠の細い首筋がある。
しっとりと汗ばんでいるが、綺麗なラインを描くそれのあまりの色香に春葉はくらくらとした。


「っ!あ、あの…!ちょっとまってくださいっ」


色に流されそうになるが、なんとか理性を動かし制止の声をあげる。
心臓は早鐘のように鳴り響いている。目の前の『恋人』に気づかれてしまっているのではないか。
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