金田一 short
□死神救世主
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「春葉、今日は我が社にとって大事な取引先の方へのご挨拶だ。きちんとした身なりでな。」
「はい…。」
広い敷地の日本家屋の一室。
寝室であるそこの畳は植物だったときの香りを未だ色濃く残していた。
そこにいる男女…それはこの広い家の主である男と……その妻だ。
着物を纏った女性は、見ただけで上質だとわかるスーツを男の袖に通す手伝いをしている。
きちんと着込まれた着物と結い上げられた髪の毛。控えめな印象を感じさせる伏せられた眼だった。
あまりに無表情のその顔は人間らしい美しさというよりは、まるで人形のそれだった。
「そうだ。この間お前にプレゼントした着物があるだろう?あれを着ていったらどうだ?」
「かしこまりました。ではそちらに着替えて参ります。」
スーツを着せると今度は男の正面に周り、ネクタイを結び始める。
淡々と作業をこなすその様子を男は至極満足そうな笑みで見送る。
「春葉…。お前は本当に最高の女だ。力付くでモノにした甲斐があったよ。」
「………。」
ぴくっと無表情を通していた春葉の眉が上がる。
男はそっとその春葉の頬に手を寄せ、下卑な形に口と目を歪ませて呟く。
添えられた手の親指でさわさわと頬を掠めるようになぞられる。
「ふふっ。後はほんの少しだけ…愛想がよくなると良いんだがな。」
「………」
夫である男の言葉に無言で返事をする。
反応のないことをわかっていた男は、わかりきった顔で…
ーーしかし若干不機嫌さを滲ませながらーふんっと鼻を鳴らした。
「まぁ今はそれでいい。が、今日行くところでそんなに無愛想な態度をとれば…どうなるかわかっているな?」
頬をくすぐっていた手を顎に滑らせ、ぐっと強い力で掴む。
「っ!……わかっています!」
「ふん。分かればいいんだ。自分の置かれている状況を常に噛み締めて行動しろ。頭の良いお前ならわかるだろう。」
顎を掴んでいた手を離し、踵を返す。
「お前の支度が終わったらすぐに出るぞ。」
パタンっと部屋と部屋を結ぶ襖が閉められ、静かな部屋に1人春葉は取り残された。
「…〜っ!」
身体を支えていた支えを無くしてようにそのまま膝から崩れ落ちた。
そして、“夫”の前では見せなかった”感情”をありったけ表した顔で静かに雫を零した。