金田一 short
□指定席と独占欲
1ページ/9ページ
金曜日の夕暮れ時。
5日間の疲れが一気に解放されるなんとも嬉しい時間帯。
駅にはこれから帰宅する者、解放的な気分に乗ってそのまま飲み屋に出掛ける者、恋人と過ごす者、様々な人が行き交う。
その人混みの中、春葉はポツンと1人で駅のロータリーに立っていた。
秋も終わり、冬へと少しずつ移り変わる季節だ。
秋の過ごしやすさを想定した春葉の装いでは、少し今日の空気は冷たい。
しかし、これから来るであろうお目当ての車の姿が見えるまで暖かい店には入らず、外でじっと待つ。
(あ…来た…)
いつもの道から出て来た、見慣れた外車。もう何度も乗ったそれのナンバーすら覚えてしまった。今更見間違うはずもない。
じっと目を細めて、運転席を確認するとそこには確かに自分が待っていた恋人がいて、車を運転している。
(…あ…れ?)
よく見てみると、彼は口を動かしていて、誰かと会話しているようだった。
何かと思い、彼の隣を見てみるとそこには自分の知らない女性がいて。
(私が…いつも座ってるところ…。)
じわりと春葉の心臓辺りに黒い染みが産まれた。心臓を使って、血液と一緒に身体全体にその黒を送ってしまうのではないだろうかと思ってしまう。
車は春葉が待つ場所から数メートル離れたところに止まると、中から助手席に乗った女性が出て来た。
自分の恋人はその女性に軽く手を振り、その姿を見送ると自分のほうへと車を寄せた。