金田一 short
□嫉妬の操り人形
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「…………何をしているんですか…?」
たっぷりの沈黙の後に放たれた高遠の言葉。目の前の霧島と一緒に思わず固まる。
「ち、違うの!私がちょっと転んじゃって…!」
「そ、そうだよ高遠!俺が支えてあげようとしたらバランス崩しちゃって…!」
無表情の高遠に霧島ですら少し狼狽えている。
床に仰向けに横たわり、その上に霧島が覆いかぶさっているような体制だった。端から見れば霧島に押し倒されているように見えなくもない、この状況。
霧島と高遠が一緒に住むマンションの部屋にご飯を作りに来たのだが、準備のために部屋の中を歩き回っているとバランスを崩して倒れてしまったのだ。丁度近くにいた霧島が身体を支えようと手を伸ばしたのだが、間に合わずに2人揃って床に倒れ込むような形となってしまったのだ。
何故ここでと言いたくなるくらい素晴らしいタイミングで、席を外していた高遠が戻って来たのだ。
「………。」
相変わらず無言で無表情の高遠に、背中に冷たい汗が伝う。
「や、やだなぁ、高遠。お前も家にいるのにここで春葉ちゃんのこと襲うわけないでしょ?俺、そんなに女に飢えてないし…。」
「よ、遙一さん、本当だから…!」
必死の説得に高遠は静かに息を吐き出す。
「……とりあえず春葉から離れなさい。」
重々しく吐き出された高遠の言葉に霧島と顔を見合わせ、ばっと離れる。
「わ、私…!ご飯の支度に戻るね!」
そう言ってキッチンの方へと逃げ込んだ。
(わ〜…!恥ずかしい…!)
少し心臓が早めに鼓動する。転んだことに驚いたのと、近づいた霧島の顔と…何より高遠が現れたタイミングが心臓に悪かった。少し気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をする。
「……ふぅ。」
「春葉。」
「きゃあ!」
「なんですか…そんなに驚いて…。」
「い、いや、ちょっとびっくりしただけです…!」
「…そうですか…。それより…何か手伝いますか?」
ぎゅっと後ろから高遠に抱きしめられ、耳元で囁かれた。優しいその仕草に落ち着かせようとした心臓が再び高鳴る。
「あ、ありがとうございます…。そしたら野菜切るの手伝ってもらえますか…?」
「わかりました。」
そういって高遠は道具と食材を出して、作業をはじめる。