金田一 short

□恋慕とは、奪うこと
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「なんだぁ!?佐倉!お前フラれたの何回目だぁ!?」

「な、何回目って…酷いです!左近寺さん!劇団入ってからまだ2人目です!しかもフラれたんじゃなくて、フったんです!」

都内の個室居酒屋。
幻想魔術団の団員であるメンバーはどうしても抜けられない用事のある団長を除いて、都内の最終公演の打ち上げを行っていた。
既に開始から数時間経過しており、交わされる会話もかなりプライベートに突っ込んだものだった。

そして先ほどから詮索される標的は、この劇団で見習いマジシャンとして身を置く佐倉春葉だった。

「何言ってるんだよ。お前この劇団入って1年立たないくらいだろ?その間に2人の男にふられたって言うなら結構な回数じゃないか!」

「だから!私がフったんです!」

春葉の訂正等意に介さず、がはははは、と左近寺はビールを片手に大声で笑い飛ばす。
隣の席に座っていた、同じ見習いマジシャンの残間さとみが慰めるように春葉の肩に手を置く。

「春葉ちゃん!そんな落ち込むことないよ!絶対次はもっと良い人が見つかるって!」

「さとみちゃん…左近寺さんと違って優しい…。」

春葉はぐしぐしと涙を拭うような素振りを見せる。俺だって優しいぞ、と春葉の言葉に反応して左近寺が口を挟む。

「それで?今度はなんでフられたんだ?」

左近寺の隣で赤ワインを飲んでいた由良間が問いかける。
意地悪な劇団員は、何度言っても春葉が「フられた」ということを変えようとはしないらしい。もう訂正する気にもならなかった。

「……前と同じです。浮気、されました…。」

「確か…その前の方も同じでしたよね…。」

会話をずっと聞いていただけの桜庭がぼそっと呟いた。静かに放たれた一言が春葉のまだ新しい傷をぐりっと抉った。
春葉はその言葉のせいで滲んだ涙に染まった目で、桜庭を見た。すいません、と素直に謝る桜庭を責める気にはならない。

「…浮気するような人じゃなかったんですよ…。でも私と全然違うタイプの人と浮気してて…。」

「ふ〜ん…男運どころか男を見る目までないってことね。」

「由美さんまで…ひ、酷いです…。」

幻想魔術団の団員は本当に皆当たりが強い、と春葉は肩を落としながら思った。確かに言う通りではあるのだが、恋人に浮気されて別れたばかりの人間にかける言葉としては辛辣な言葉の数々だった。

「じゃあさぁ、春葉。今度俺と付き合ってみるのとかどう?」

「え、ええ…!?」

そういって、ぐっと身を乗り出してきたのは由良間だった。

「佐倉ー。こいつも止めておいたほうが良いと思うぞぉ。遊び人だし、たらしだし、ナルシストだし。きっとお前が泣くだけだ!」

いつものように食えない表情で、左近寺が由良間を茶化す。

「左近寺さん…本人を目の前にまぁ、随分とむかつくことを言いますね。」

「あははは!確かに左近寺の言う通りねぇ!由良間と付き合うくらいなら高遠のほうがまだましじゃない?」

「由美さん…?俺と高遠を並べて高遠のほうが良いっていうのは流石に聞き捨てならないですわ…。」

そう言って悪い顔の3人で会話が盛り上がる。この3人こそお互いに遠慮無しに嫌味も織り交ぜながら話をするものだから端から見ている人間のほうが冷や冷やとする。
いつもなら団長が上手く諌めるのだが、その団長も今日はいないため春葉とさとみ、桜庭の3人は小さくなって成り行きを見守る。

「も〜、皆さん!お会計終わりましたよ!お店の人に出るように言われているので準備して下さい!」

個室内に響いた少し困った様子の声に、高遠さんグッジョブ…!と春葉達の思いが重なる。

席に戻って来たのは幻想魔術団のマネージャーである高遠遙一だった。会計を済ませ、お酒の入った全員を立たせて出口まで引っ張って行く。

「なんだよ、高遠。盛り上がりそうだったのに、野暮な奴だな。」

「タイミング悪いのよねぇ。まったく…。」

「す、すいません…!で、でももう出ないと…お店の人も困ってましたし…。」

マネージャーだから、と言えばそうなのだが彼はそのおどおどした態度から、劇団員にはとても粗雑な扱いを受けている。

春葉の後ろではさとみが高遠さん何も悪くないじゃん、と呟いている。春葉はそれに心の中で小さく同意する。
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