金田一 short
□熱と毒がもたらす不可抗力
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ーガシャン!
「…っあ!」
陶器が割れる音がキッチンに響く。
鼓膜に痛いその音に、春葉は思わず目を瞑って身体を跳ねさせた。
「…春葉?」
音を聞いて直ぐに駆けつけたであろう、リビングにいた高遠が顔を出した。
「ごめんなさい…。ちょっとぼーっとしてて…。お皿一枚割っちゃいました。」
床には無惨に砕けた皿の破片が散らばっていた。春葉が慌ててそれを拾おうとするが、高遠が直ぐさまそれを制す。
「危ないから私がやります。それよりも怪我は?」
「大丈夫です。」
テキパキと破片を片付け始めるのを前に春葉がおろおろとしていると、高遠が手を止めてその顔をじっと見つめた。
「…………春葉。」
「…なんですか?」
観察するような眼差しがくすぐったくて、視線をそらすと高遠の綺麗な手が春葉の頬にそっと添えられた。
「…熱がありますね。」
「…へ…?」
「まさか気付いていないとは…。まぁでも見たところひきはじめのようですね。早く着替えて寝なさい。後は全部私がやっておきますから。」
「…熱…。」
確かに言われてみれば頭が重く、少しだるいような気はしていた。しかしそれも、週も半ばで疲労からくるものだと甘く認識していたものだった。
それでも今は症状を自覚したとは言え、全く動けないというわけではない。
「でも片付けあと少しだから…。」
「いいから。自分からベッドに行けないなら、無理矢理引っ張っていきますよ?」
床に散らばった破片はどんどんと片付けられていく。
春葉がこのままここに居続ければ、本当に「無理矢理引っ張っていく」という言葉が実行されるのは経験則でわかっていた。
そうなると、余計に高遠の手を煩わせることになる。
「…わかりました…。のこり、お願いしますね。」
「私も後で行きますから。」
「ありがとうございます。」