金田一 short

□死神救世主
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所謂高級住宅街と言われるその地区の1つの家の前に春葉とその夫が乗った車が止まる。

「ご苦労。迎えは22時頃で良い。」

専属の運転手にそう伝えると、車を降りる。


その家は夫婦が住む日本家屋とは正反対の洋館のような家だった。

「ここだ。うちの会社の良いビジネスパートナーとして関係を築いている商社の重役…高遠さんの家だ。」

「…。」

「何度も言うようだが、春葉。態度には気をつけろよ。
今日は私たちの結婚を祝う為にわざわざ彼の家に招待してもらったんだ。」

「…はい。」

諦めたような、悲しさを湛えた表情で春葉は小さく息を吐き出す。
痛いほどわかっているのだ。
自分はこの男には逆らうことができない。


ーーピンポーン

「こんばんは、市川です。」

『お待ちしておりました。旦那様が中でお待ちです。どうぞ。』

ロックのかかった門が開き、手入れの行き届いた庭を通り玄関口へと足を運ぶ。


(あ…綺麗な庭…)

春葉は久々に目にする洋風のガーデンに目を奪われ、こんな状況だったが胸が弾む。

「市川君、こんばんは。よく来てくれたね。そちらの方がご結婚相手の春葉さんか?」

そう言い出迎えたのはその家の主人だった。
早速声をかけられ、春葉はにこっと微笑み、答えた。

「初めまして。市川春葉です。」

「まさか君がこんなに若くて可愛らしいお嬢さんを迎えるとは思ってもいなかったな。」
「ええ。本当に素晴らしい女性を妻に迎えられて私は幸せ者です。」

良い関係を築いている、というのは本当だろう。
一見気難しそうに見えるこの家の主人とすぐに談笑が始まる。
そんな2人の後に続き、リビングに通される。

春葉は2人の会話に笑顔を貼付けたまま機械的に相槌を打つ。
しかし、その春葉の心中に渦巻く感情に気付く者は誰1人としていない。

(ー早く終わって欲しい。早く帰って1人になりたい…。)

その笑顔からは想像もできないような暗い想いがどろどろと吹き出し、身体中を支配する。
こんな風に春葉を自分のものだと連れて言い回ることに自分の”夫”は愉悦を覚えているのだ。
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