金田一 short
□恋慕とは、奪うこと
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全員が高遠に追い立てられるようにして外に次々と出ていく。最初に店を出た春葉が店の外で全員が揃うのを待つと、1番最後に出てきたのはやはり高遠だった。
「高遠さん!お会計ありがとうございました。」
「佐倉さん、いいんですよ。これも仕事のようなものですから。」
声をかけると、高遠はにこっと優しい目で春葉に答えた。春葉の投げかけた声に、少しほっとしたような、嬉しそうな表情が見え隠れする。
「マネージャーって大変ですよね…。」
「ふふっ、そんなことないですよ…」
「春葉。高遠のやつはそんな扱いでいいんだよ。それより今から2人で2軒目行くぜ。」
高遠をどかすように、間に割り込んできたのは由良間だった。
春葉の中では先程の話は流れたと思っていたが、どうやら彼には春葉を誘おうという意思がまだ残っているようだった。
「え!?い、いや…その…。」
こういうときの由良間はとても強引だ。しかも今はアルコールが入っており、その強引さはいつもより割り増しだった。
「あ、佐倉さん、確か私と帰る方向同じでしたよね?もうすぐ終電なくなっちゃいますよ!」
困惑し、どうしようかと俯いていると、高遠が春葉の腕を掴んで引っ張った。
「ほら、さとみちゃんも!皆さん女の子なんですから、遅くなると危ないですよ!」
「あ、私も帰る帰る!高遠さんも春葉ちゃんも一緒に帰ろう?」
すぐに高遠、さとみ、春葉の3人で帰る流れができた。さすがの由良間もここまで来ると食い下がるようなことはしなかった。
「けっ、なんだよ。つまらねぇな。」
そう言って由良間は近くを通ったタクシーを掴まえてそれに乗り込んだ。
「わー。由良間さん、まだ電車あるのにタクシーで帰るんだ…。流石、幻想魔術団のナンバー2ともなると羽振りも違うのねぇ。」
率直に述べるさとみに春葉と高遠は顔を見合わせて笑った。
「ふふ、さとみちゃんってば本当に素直よねぇ。」
「でも言う通りですね。由良間さんらしい。」
そういう高遠の横顔を見て、春葉は嬉しくなる。いつもは頼りない印象の高遠が、こんなにも心強く感じたことはなかった。
「高遠さん。今の、ありがとうございました。」
「ん?」
「わかってますよ。由良間さんから助けてくれたんでしょう?」
「あー!それ、私も思った!高遠さんも普段あんなに由良間さんにいびられてるのに、やるときはやるんだねぇ!」
「い、いびられてるだなんてそんな…。私ってそういう風に見られてるんですね…。」
しょぼんと肩を落とす高遠を見て、今度はさとみと春葉が笑う番だった。
「でもかっこ良かったですよ。高遠さん。本当にありがとうございました。」
春葉が再度お礼を述べると、高遠は照れ臭そうに俯いた。
「こ、これくらい…って!?あぁ!ほら、こんなこと話してたら終電が…!」
「大変だ!高遠さんっ、春葉さんっ、ダッシュですよ!ダッシュ!」
そう言って走り出したさとみを慌てて高遠と春葉は追いかけた。