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□お姫様と手作りお菓子
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「紫姫、今日は家庭科部の日だよね」

「うん。そうだよー」

「ごめんね、私今日は用事があるから先帰るね」

「あ、うん。どうしたの?」

「何かね、最初断った後に御子柴が頼まれたんだけどあいつがどうしてもっていうから変わる事にしたの」

「へー…そうなんだぁー」



何をするんだかはわからないけど…まぁ、いっかー。



「じゃあ、頑張ってね遊」

「ありがとう。紫姫も怪我とかしないでね?」

「あはは。今更しないよぉー」

「油断大敵って言うでしょ?じゃあね、紫姫」



遊に指先に軽くキスをされたけど、昔からよくされているものだからすっかり慣れてしまった私はありがとうーなんて言って終わってしまった。





「紫姫」

「あ、堀先輩!どうしたんですか?」



活動を終えて今日の片付け当番だった私は一人簡単な片付けをしていると窓から先輩がこちらを覗き込んでいた(ちなみに家庭科室は一階なのです)。



「ちょっと用があって残ってたんだよ。今日は何してたんだ?」

「今日は初心に戻ってカップケーキとクッキー作りましたー」



えへーと笑いながらそう言うとよかったな…?なんて不思議そうな顔をして言ってくれた。



「にしても何で急に初心に戻ろうと思ったんだよ」

「この間部員達の間で話題に出たんです。
クッキーやカップケーキも材料は全く同じでも作る人によって味が変わるのか?って!だから今日やってみたんです!」

「で?結果は?」

「…多少は風味が違った気はしますけどほぼ同じでした…」

「ふはっ!何落ち込んでんだよ!」



先輩は笑いながらそう言っていた。
私達はわりと本気だったのになぁ…。
調理手順とか人によって違ったりもしたから楽しみにしてたのに…。



「他の奴らは?」

「あ、帰りましたよ。私は今日の片付け当番なので片付けしてたんです」

「そっか。まだ残ってんのか?」

「はい、あと少し」

「んじゃ手伝う。靴履き替えてくっから待ってろ」

「え?でも…」

「大した事は出来ないけどな。すぐ行くから」

「ぁ…先輩!…行っちゃった」



演劇部休みだったのに手伝わせちゃって申し訳ないな…。
そんな事を思っていると部屋の扉が開いた。



「先輩早いですね」

「まぁ下駄箱そこだしな。何やりゃいい?」

「えーっと…じゃあそこのボウルをあの棚の一番上にお願いします」

「おう」



それから先輩には軽いけど私には少し高い位置に戻す物を片付けてもらった。
少しすると道具はほとんどしまい終わったので先輩には椅子を勧めた。



「あとは水気とって片付ける物ばかりなので座ってて下さい」

「ん。…ここの、お前が作ったのか?」

「あ、はい。ちょっと作りすぎちゃったんですけどねー」

「何でだよ」

「皆で食べ比べしてたので…とりあえず冷ましてから持って帰ろうかと」

「ふーん…」



あ、明日遊だけじゃなくて千代ちゃんや御子柴くんにもあげようかな。
クッキーなら明日になったも食べられるし演劇部に差し入れても…



「って、堀先輩!?」



そんな事を考えていると先輩はその中のカップケーキを手にとってがぶりとそれに噛み付いた。
私はというとポカンとしながらそれを見るしか出来なかったけど…先輩はそんなの気にせずにもぐもぐとそれを咀嚼していた。



「あ、うめぇ」

「え、先輩確か手作りのお菓子とか苦手なんじゃ…!!」

「知らない奴からのはな。紫姫なら変な物入れたりしてねぇだろ」



先輩はそう言うとそのままそれをぺろりと完食していた。



「わり、今俺腹減ってんだ。もう一個貰ってもいいか?」

「え、そ、それは大丈夫ですけど…」

「こっちの何味?」

「えっと…これはチョコでそっちはコーヒーです」

「コーヒー?」

「あ、はい。生地にも粉末にしたコーヒーを入れて、中にはコーヒーを混ぜたクリームが入ってるんです」

「へー…これもうめぇな」



私の説明を聞きつつもすでに先輩はそれを口に運んでいて…私が説明する意味あったかなぁ、なんてちょっと思った。



「ごっそさん。お前やっぱり料理上手いな」

「へ?先輩私が作った物食べた事ありましたっけ?」

「バレンタインの時の皆さんでどうぞ、って書いてたやつ食った」

「嘘!?あの時先輩手作りお菓子ダメって聞いたからわざわざ市販の用意したのに…」

「まぁ…確かに苦手は苦手だけど紫姫は大人数への差し入れみたいな物にハズレを作ったり変な物入れて作ったりしないと思ったし…だから食ってみたら全然平気だった」

「知らなかったです…!言ってくれればよかったじゃないですかぁー…」

「んな恥ずかしい事自分から言えるかよ。
手作り苦手って言ったけどお前のは食ったとか言いにくいだろ」

「あ、なるほどです…」



ちょっと照れたように言う先輩を見たらなるほどなーなんて思ったのでうんうん、と頷いてしまった。



「あ。先輩、よかったらカップケーキ貰ってくれませんか?」

「いいのか?」

「はい!先輩がそうやって手作りの食べてくれるの嬉しいので…もしよかったら」

「そんな事言われると遠慮なく貰ってくぞ?」

「どうぞどうぞ!何なら全部でも!」

「それは多いだろ!」



遊に言うよりも少し柔らかい雰囲気で笑いながらそう言われて思わずふふふーなんて笑ってしまうと何だよ、なんてちょっと拗ねられてしまった。



「ったく…。じゃあこの辺の貰っていっていいか?」

「どうぞー。あ、これとこれ同じ味ですけどいいですか?」

「あー…じゃあ変えていいか?」

「はいっ。じゃあラッピングしますね」

「悪い。じゃあ代わりにあっち片付けておくな」

「はい。お願いします」



先輩が背を向けてから選んでもらったそれを丁寧にラッピングをした。先輩、コーヒーの気に入ってくれたんだぁ…。
先程のコーヒー味のケーキを選んでいるのを見てそう思うと笑みが零れた。
コーヒー味、初めて作ったけど美味しいって言ってもらえて嬉しいなー。
先輩が戻ってきてからラッピングしたものを渡すとサンキュ、なんて言いながら頭を撫でられて…嬉しくてまた笑ってしまった。



「えへへー」

「…お前ホント動物みたいだよな」



すると先輩も笑いながらそう言われたから動物?って返したら子犬だな、お前は。なんて相変わらず笑いながら返された。
私は先輩にとって子犬なんですか…。




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何となくヒロインちゃんが家庭科部で作ったお菓子を先輩に食べさせたかったんです。
あと褒められて嬉しいヒロインちゃんとそんなヒロインちゃんをペットのように可愛がる先輩が書けて満足です。
彼女は基本しっかり者ですが年上だろうと年下だろうと褒められると嬉しくてふにゃふにゃしちゃう感じです。
特に料理やお裁縫、あと自慢の幼馴染の鹿島くんの事を褒められるとすぐ嬉しくなっちゃいます。
今回はお菓子作りをしてますが彼女はお菓子作りよりも普通の料理の方が上手です。
ちなみにこの日、鹿島くんは合コンに行っております。



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