Long

□お姫様と看病
1ページ/1ページ







「こんにちはー。野崎くん大丈夫…?」



本日、学校を休んだ野崎くんからSOSというメールがきたので家に帰ってから薬とゼリーを持って部屋を訪れると玄関にはすでにいくつかの靴が並んでいた。
ので部屋の奥に入ると野崎くんの部屋に千代ちゃんと堀先輩、それと背の高い男の子がいた。



「すまない…間違えて4人に送ってしまった…」

「いや、それより大丈夫かよ…」

「何か出来る事ある!?」

「実は…明日漫画の〆切なんだが医者にはちゃんと布団で寝ているように言われてしまってな…。
だから…俺の代わりに寝ていてくれ!!」

「そっち!!?」

「俺不眠症なので寝られません!!!」

「あのー…そういう問題じゃないと思うんですけど…」

「でも…原稿やらなきゃ…」

「野崎くん!こんな状態じゃ無理だよ!!」

「佐倉…俺はプロだぞ。大丈夫だ、身体が覚えている。
目を閉じても右手が勝手に動き出すんだ…」

「(すごい…!!これがプロ…!!!)」



そして完成したのはマミコとは…というか人かどうかも怪しいものが描かれていた。



「野崎くん、素直に寝て」

「千代ちゃんの言う通りだよ。野崎くん、寝てないと治らなくて原稿も出来ないでしょ?
残ってる作業で出来る事はやっておくから少しでも寝てて?はい、お休みなさい」



野崎くんに布団を被せて皆と一緒に部屋を後にした。



「…お前結構強引なのな」

「病人相手には少しくらい強引な方がいいんです。何言ったって聞こうとしないんですから」

「前科ありな奴でもいんのか?」

「遊です…。昔からすぐ無茶するし、風邪ひいても学校休まなくて…。
風邪で頭ボーッとしてる所をたたみかけて布団で寝かせるのは私の役目でした!」

「お前は鹿島の母親かよ」



堀先輩は小さく笑いながらそう言っていた。
だって小さい頃から遊は大人しくするの苦手なんだもん。



「じゃあ改めて…背景担当の3年の堀だ」

「ベタ担当の佐倉です。2年です」

「消しゴムかけやってます若松です。バスケ部1年です!」

「えっと…トーンとかモブ描きとか消しゴムかけとか…色々やってます。2年の都です」

「といっても俺全然役に立てないと思いますけど…」

「いやっ、練習すれば大丈夫だよ!フォローするよ!」

「ああ、誰でも初めは初心者だからな。フォローするぜ」

「それで残ってる作業って何かな…?」



そして皆で机を見ると、トーンとカッターが置いてあった。



『(やべぇ…初めて見るぞこれ…)』

「あの、トーンなら私やりますよ?」

「でも紫姫ちゃん一人じゃ大変でしょ!?私達も手伝うよ!」

「そう…?じゃあ、お願いしようかな」



それから私がトーンを貼り出したのを見て千代ちゃんと堀先輩もトーン貼りを始めた。
でも千代ちゃんははみ出したりしていて、堀先輩は下の紙まで一緒に切ってしまっていた。



「…千代ちゃん、先輩。無理はしないで下さい」

「いや、でもよ…」

「先輩方の邪魔しないよう頑張ります!」

「そっ、そこまですごいものじゃないから!!」

「文化部なんて上下関係関係ねぇしな!!」



なんて言った後、千代ちゃんと堀先輩は二人でひそひそと話をしていた。
うーん…もしかしてアシスタントとしての先輩の意地とかがあるのかな…?



「都先輩!よかったらトーン貼り俺もやってみていいですか?」

「あ、うん。じゃあこれを貼って、カッターで切り取ればいいからね。
下の紙も一緒に切らないように気を付けてね」

「はいっ!」



という訳で彼もトーンを貼り始めたので様子を見ていた。



「あ、若松くん上手だね!」

「本当ですか?」

「文化部にも上下関係あるに決まってるだろ、一年坊主」

「トーン貼りは一年生の仕事だよ、若松くん」

「堀先輩…千代ちゃん…」



二人が後ろ手に隠した物を見ながら声をかけると二人は目線をそっと反らした。



「もう…。じゃあ若松くん、トーン貼り少し手伝ってくれるかな?」

「勿論です!」



それから張り切る彼を見て二人にそっと近付いた。



「堀先輩、千代ちゃん。お二人のも私が修正しておきますから原稿下さい」

「ぅ…ありがとう、紫姫ちゃん…」

「悪いな、紫姫…」

「じゃあ私と若松くんで基本トーンを貼っていきますので効果トーンの指示を野崎くんに聞いておいてもらえますか?」

「おう、わかった。佐倉、俺が聞いてくるから」

「あ、はい!」

「じゃあ千代ちゃん、ここ大雑把でいいからトーン貼ってもらってもいい?
はみ出た所は私がこっそり直しておくから大丈夫だよ」

「りょ、了解です…!あれ?でも紫姫ちゃんは…?」

「野崎くんに薬飲んでもらう前に何か食べてもらわないとだからお粥作ろうかなーって。
だからちょっとの間お願いしてもいい?」

「うん!」

「じゃあ頼りにしてるね」



それから原稿の一部を若松くんと千代ちゃんに任せて私は台所でお粥を作り始めた。
とりあえず作り終わったら千代ちゃんのトーン直しして、効果トーンとかを貼ればいいかな…。
なんて、そんな事を考えていたんだけど…



「…何がどうなってこうなったのかな…?」

「い、いや…それは、その」

「マミコは禍々しいトーンばっかりだし鈴木くんはキラキラのトーンしかないじゃないですか!」

「ご…ごめんなさい…紫姫ちゃん…」

「…残りは野崎くんに確認しながらやりますから皆さんはもうトーン貼りはしなくて大丈夫です…」

『(紫姫(ちゃん)が怒ってる…!!)』

「千代ちゃん、これ野崎くんに持って行ってあげて?」

「えっ!?あ、うんっ…!!」



それから千代ちゃんはお粥を持って野崎くんの部屋に向かった。



「紫姫、悪い…」

「もう…。大丈夫です。これなら何とか直せると思いますから…。
でも何がどうなってこうなったんですか?」

「俺と佐倉先輩でマミコのトーンを周りにいる女性を思い浮かべながら考えたんです!」

「…若松くんと千代ちゃんの周りの人って何者なの…?」

「色んな意味で凄い人です」



そう言う若松くんは嫌そうな…疲れたような顔をしていた。



「そう、なんだ…?それで、鈴木くんのトーンはどうしたの?」

「俺が選んだ。やたらとモテるイケメンならこれだと思ってな」

「…先輩、流石に1種類じゃ困りますから…」



先輩は自信満々な顔でそう言っていたけど…流石にそれだけじゃ困るもんね…。うん、却下させてもらおう…。



「あ。千代ちゃん、野崎くんの様子はどうだった?」

「えっと…新キャラの名前考えてたからお粥食べてもらって薬飲ませてきた所」

「あいつ漫画の事以外考える事はねぇのかよ…」

「熱はどうでした?」

「まだ下がってないみたい」

「そっか…。でも私達がいても出来る作業もないからとりあえず声かけて帰りましょうか…」

「うーん…でも大丈夫かな…」

「いざとなったら連絡してもらうよ。私ならすぐ来れるし」

「えっ!?そうなんですか!?」

「うん。私、この上に住んでるの」

「そうなんですね!」

「とりあえず行くか。おーい、野崎ー」

「先輩…?どうしました…?」

「悪い、俺達に出来る事なくなっちまってな…」

「ああ…大丈夫です…。長い時間すみません…」

「野崎くんはちゃんと寝てね!?」

「ああ…」

「野崎先輩、何かあったらすぐ連絡下さいね!」

「わかった…」

「野崎くん、原稿しないでちゃんと休んでね」

「ああ…そうする…。今日はすまなかったな…」

「気にしないで!じゃあ…野崎くん、お大事にね…?」



千代ちゃんの言葉に頷いたのを見て、私達も部屋を出た。



「じゃあ気を付けてね」

「うん!紫姫ちゃん、また明日ね」

「さようなら、都先輩!」

「じゃあな、紫姫」

「はい。じゃあね」



それから帰っていく3人の背を見送った。



「…とりあえず野崎くんにはメモ残したから大丈夫…だといいな…」



野崎の部屋の原稿の上には、『熱が下がったらトーン貼り直すの手伝うから連絡してね』と書かれた紫姫からのメモが置いてあった。
おかげで〆切にはギリギリ間に合った事を佐倉達は知る由もなかった。






---------------------------------------------


家事能力が物凄く高いヒロインちゃんならトーンの合間とかでもお粥くらい作るかなーと…。
そして千代ちゃんと堀先輩の失敗も若松くんにバレないようにしっかりとフォローしております。
そしてそしてそんな3人の知らない所で作者さんをフォローするというヒロインちゃん。
……フォロー上手過ぎるよヒロインちゃん!!


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ