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□お姫様と音痴
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「あっ、鹿島くーん!」
「千代ちゃん。どうしたの?」
千代ちゃんの声に遊はにこやかに返事をしていた。
ちなみにその遊の腕には私がすっぽりと収まっている。
いきなり私を呼ぶ声がしたと思ったらそのまま廊下で抱き着かれて中々離れようとしなかったからなんだけど…昔からよくある事だから私もそのまま遊と話していた。
「鹿島くんって…もしかして音痴だったりする…?」
「は!?私が音痴!?そっ、そんな事ないよ!やだなー、もう千代ちゃんはー!!」
「鹿島くん、それ野崎くん」
千代ちゃんの問いに動揺した遊は千代ちゃんではなく野崎くんの頭をがっしがっしと撫でていた。
…遊、それ本当に千代ちゃんにやってたら痛いと思うの…。
いや、野崎くんも痛いと思うんだけどね…?
「あーそうだよー。私は音痴ですよー!!ガッカリした!?ガッカリしてるよねー!!!」
「いや、別に…どうでもいい」
「意外性があっていいと思うよ!ねっ、みこりん!!」
「何だ…音痴なだけかよ…」
「(違うベクトルでガッカリされている…!?)」
「(御子柴くんは何を想像してたのかな…?凄いガッカリしてるけど…)」
「何なの今日は…部長といい君達といい…」
「堀先輩にも何か言われたの?」
「……実はさっき…部長と会ったんだけどさ…」
『鹿島!!次の劇はミュージカルに挑戦してみようぜ!!
お前歌って踊って綱渡ってバク転して火の輪くぐりも出来るよな!!!』
「……って!!だから紫姫慰めてぇー!!!」
「待って。それは本当にミュージカルなの?」
遊は最後泣きながら私にガバッと抱きついてきた。
えっと…もしかしてさっきまで抱きついていたのもそれで落ち込んでたからなのかな…?
「紫姫は知ってたのか?鹿島が音痴って」
「うん。幼馴染だからね。だから今まで合唱とかの時は口パクとか指揮者やって誤魔化してたんだよー」
遊の背中をぽんぽん、と撫でながら御子柴くんに言うとふーん…なんて言っていた。
それから千代ちゃんが歌の上手い人に教わるのはどうか、と案を出してくれたので千代ちゃんの友達の声楽部の人の所に行く事にした。
ちなみに御子柴くんはかったりーから帰る、と言って帰ってしまった。
「ああ?歌を教えて欲しい?じゃあ『どうか教えて下さい瀬尾様』って頭を下げて教えを乞えよ」
「結月!!!」
そう言ってきたのは千代ちゃんのクラスメイトの瀬尾結月さんで…美人だけどちょっと癖のある人なのかな?なんてこっそり思った。
「ああ、悪い悪い。よく似たような事頼まれっからよー」
「嫌な慣れだな」
「え?土下座すればいいのかな?」
「(こっちも嫌な慣れだな!!)」
「遊…とりあえず待って。ね?」
遊はその言葉に従ってくれたので床に座ったような状態で瀬尾さんを見た。
「とりあえず歌ってみろ。聞いて判断すっから」
「う、うん!!じゃあ…」
そして遊が息を吸ったのを見て私は咄嗟に耳をしっかりと塞いだ。
野崎くんと千代ちゃんは床にのたうち回るような状態で、瀬尾さんは椅子に座ったままだったから大丈夫なのかな?なんて思った。
「うん、大体わかった。マジやべーな!」
「お前も聞けよ!!!」
瀬尾さんはいつの間にか耳栓をしていたみたい。
…それで表情を変えずにいられたんだ…。
「つーかあんた…紫姫だっけ?お前は平気なのかよ」
「あ、うん。幼馴染でよく聞いてたから。昔から聞いてたから耳さえ塞いでいればなんとかなるよ」
「紫姫そんな事思ってたの!?酷い!!」
「だって…歌だけは…」
「知ってるよ!わかってるよ!!だからどうにかしたいんだよ!!」
「ちなみに遊はリズムはとれるし楽器も演奏出来るんだよ」
「うん…何故か歌だけがダメでさー…どうにかなるかな?」
「今すぐ諦めるのと一年びっしり練習した後諦めるの、どっちがいい?」
「もっと希望のある選択肢くれよ。
別に…ものすごく上手になりたいって訳じゃなくてさ…堀先輩があー、ちょっと下手だなーって笑えるレベルになればいいんだけど…」
「先輩がミュージカル大っ嫌いになるように仕向けるのと」
「そんな記憶なかった事にするの」
「「どっちがいい?」」
「(先輩をどうにかした方が早いの!!?)」
「紫姫ちゃんはどう思う?」
「ん?んー…そうだなぁ…遊も頑張りたいなら練習してみるのもいいんじゃないかな?もしかしたら上手くなるかもだしね」
「紫姫…!!」
「その間に私は堀先輩がミュージカルを推してきたら全力で反対しておくから!安心してね!」
「紫姫は私の味方だと思っていたのに…!!」
「違うよ!遊の味方だからこそ堀先輩にガッカリされないように反対する訳で…!!」
落ち込む遊にわたわたしながらそう言うと遊は私の名前を呼びながら私に抱きついてきた。
とりあえずこれから遊は結月ちゃんに歌の特訓をしてもらう事になった。
私はとにかく堀先輩のミュージカル案をちゃんと却下しないと…!なんて思っていた。
「紫姫、お前どれがいいと思う?」
「へ?」
これ、なんて言いながら堀先輩に見せられたメモには演劇部のプリンス、ロミオ、オスカーと書かれていた。
「…先輩、これは…?」
「声楽部にはローレライがいるだろ?鹿島にはどれが似合うと思う?」
「えっ…と…とりあえずすでに王子様と言われてるのでプリンス以外がいいかと…」
「そうか…わかった。ありがとな」
そう言って先輩は大道具作りに行ってしまった。
…先輩、何だかんだで遊の事凄い可愛がってるよなぁ…なんて思いながら私も作業に戻る事にした。
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という訳で幼馴染でも鹿島くんの歌は聞いていられないらしいです←
それでも昔から聞いていたので直で聞くのではなく耳を塞いでいればどうにか我慢は出来るようです。
そして堀先輩に対して鹿島くんを可愛がってるよなー…と思ってますが自分だって鹿島くんは大好きなので甘やかしてる感じです。
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