戴くは結いし花の冠

□色香(仮)
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ミルティアはいつものように笑って、
「いたらソフィーにはとっくに話してるわよ」
「…そうよね」
いつでも私のことを最優先にしてくれる親友…できれば、まだ彼女の一番を他人に譲りたくない。
「…鈍感」
トーストにのせたマーマレードのジャムのほろ苦い後味が、ミルクティーと溶け合って消えていく。
「えっ、何?」
こんがり焼けたトーストをかじる音にまぎれて、ミルティアの呟きを聞き逃した気がする。
「ふふっ…オレンジついてる」
マーマレードに入ってるオレンジの皮が私の口の周りについたのか。言われて自分で取ろうとしたら、
「!」
ミルティアにキスされた…というか、オレンジの皮を口で直接吸い取って食べた?
「み、ミルティア…」
さっきキスしたばかりで、仕返しされたような気分。バレてるのかもしれないと思うと、またドキドキが止まらない。
「ソフィーって、やっぱりかわいい」
ミルティアの笑顔に、何も言い返せなくなってしまう。
一応、私のほうが年上。でも何だか手玉にとられてる気がする…
ミルティアと私は仕事では一緒になることがあまりない。寝起きと出かけるのは一緒でも、昼間はほとんど離れて過ごすことになる。
(…あ、ウリル)
偶然、ウリルが一人で城を出て行くのを見かけた。レイナート様の参謀ムーランジュに訊いてみたが、特にレイナート様から命令などはないようだ。
それならウリルはどこへ何をしに行くのか…怪しい。
(今日こそ尻尾をつかんでやるわ!)
ちなみにウリルは妖魔の中でもサキュバスと呼ばれる種族で、翼や尻尾がある。実際にあの尻尾を触ってみたらどんな感じなのか多少は気になるが、そういう意味ではなく…
ウリルの尻尾、いや後ろ姿を追ってみた。気づかれないように音をたてず、距離をとってついて行く。
私は魔導士だけど、こんなことなら忍者の修行でもしておけばよかったかもしれない。西のイズモという国には実際に忍者がたくさんいる。教わるなら美人で優しい女性の忍者がいいな…なんてくだらないことを考えているうちに、ウリルが森に入っていく。
(いけない、見失っちゃうわ)
音をたてずに森の中を歩くのは難しい。尾行はあきらめようかと思ったとき、ウリルが立ち止まっていることに気づく。誰かと話をしてる…?
「セーラ…何の用?」
ウリルのそばに金髪の女がいる。ウリルが言ったセーラというのが女の名前だろうか。よく見るとセーラにもウリルと同じような黒い翼がある。
(あの女も妖魔…!)
こんなところに隠れて仲間のサキュバスと密会? ウリルの口ぶりだとセーラがウリルを呼び出したのか。
「あら残念、まだ生きてたのね。顔色が悪いから死んでるのかと思った」
「ケンカ売ってるの?」
どうやら同じサキュバスでも二人は仲が悪そうだ。
「用がないなら消えて頂戴。私はあなたと遊んでるほどヒマじゃないの」
「ヒマにしてあげましょうか?…あなたがいつまでもモタモタしてる原因──」
言いかけたセーラの言葉が止まる。
(あっ…!)
思わず声を上げそうになった。ウリルがセーラにキスした…!?
「んふふふ…そんなに私が好きなの?」
仲は悪そうだけど、嫌がってる様子はない。
「そのうるさい舌を噛み切ってやろうかと思っただけよ」
森の木々の間から次々と竜人が出てくる。
「目障りだわ。いたぶってあげる」
ドラゴニア…ウリルが召喚した魔物の兵だわ。
「不粋ね。竜人なんかじゃ気持ちよくなれないわ」
セーラの周囲の地面からはゾンビが続々と生えてくる。こんなところで戦闘する気…?
ゾンビも手強い魔物だけど、ウリルのドラゴニアは最強の兵。セーラのゾンビは次々と倒されていく。
「そろそろ命乞いでもしたらどう?」
「せっかちな女はモテないわよ」
セーラはリザレクションでゾンビを復活させて粘るが、やはり兵の強さが違いすぎる。ゾンビは瞬く間に全滅し、竜人が襲いかかってセーラは倒され、ようやくウリルの指示で竜人が退いていった。
「バカね。やる前からわかっていたでしょう?」
仰向けに倒れたセーラにウリルが覆い被さり…
(な、何してるの…!?)
ウリルの尻尾が…あ、あんなところに…
「く…痛っ」
「我慢しなさい。…そのまま、じっとしてて」
痛みに耐えるセーラを抱き、ウリルは優越感に浸っているようにも見えた。
「く、あっ…ん、もう…許して…」
ほとんど一方的に痛めつけた上に、無理やり…気になってつい見てしまう。
「!」
セーラと目が合った気がした。見つかっちゃった…!?
私は隠れて息を殺し、ウリルが立ち去るまでそこにいた。セーラはまだ起き上がれないのか、その場に倒れたまま。妖魔とはいえ心配になってしまって…私は彼女のそばに行き、声をかけた。
「あ、あの…大丈夫ですか? セーラさ…」
名前を呼んでしまってから、はっとした。ウリルとの会話を聞いていたことがバレてしまう。
「ありがとう…優しいのね。あなた、ウリルのお友達?」

(→続く)
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