黒バス short

□霧崎第一メンバーとカレー作り
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「だから何回言わせたらわかんだよ!このバカ!!!」

二階の調理場、所謂家庭科室から響く怒号
調理台を手でバンバン叩きつけ怒りを露わにする花宮真の眉間の皺はかつてないほど深い

「まぁまぁ、花宮そんな怒んなって」

やる気のない声で宥めるのは原一哉
手を頭の後ろで組み噛んでいるガムをぷくーと膨らまし言う原に花宮はビシィイイ!となまえの方へ人差し指を向けると

「だったらお前がコイツに料理教えてやれよ!!!」

本日何回目か数え切れない怒号が家庭科室に響く

「いつまで経っても上達しないな」

「ここまで下手ってある意味オレはスゴいと思うけどな」

「花宮荒れてんなー」

古橋康次郎と山崎弘と瀬戸健太郎はそんな三人のやりとりを眺め言う

「はぁー」花宮は頭を抱え丸いパイプ椅子に腰を下ろし深い溜め息を漏らす

「ごめんね、花宮くん…」

花宮の前に立ち畏縮する女の子
花宮のイライラの原因だ


遡ること2日前、家庭科で調理自習が行われた
お題は“カレーとサラダ”
この調理自習は成績に大きく響く大事な科目の一つでもある
1グループ六人男女混合クジで分けられた結果は、クジ運が良いのか悪いのか
花宮、原、山崎、古橋、瀬戸そして霧崎第一バスケ部マネージャーのなまえ、となった
唯一自分の本性を知っている奴らだから他のクソ共よりめんどくさくねぇか

花宮は心の中で思う

が、いざ調理自習が始まるとなまえの不可思議な行動に五人は固まる

ニンジンを手に取り、どこから出してきたのか分からない、カレーやサラダ作りには多分出番はないだろうパンとか麺の生地を薄くのばす麺棒を持っている、なまえ

ニンジンをまな板の上に置き
両手で麺棒を握り直し振り上げる彼女に…

(ま…っまさか…)五人の悪い考えが一致する
山崎が止めようと一歩前に出た次の瞬間

ガスンッ!ゴツッ!

「あでっ!」

なまえが振り上げ力いっぱい下ろした麺棒はニンジンに命中
割れたニンジンは反動で空中を物凄いスピードでグルグル回り山崎の額にクリーンヒットし床にゴトッと音を立てて落ちる

「…ねぇ、古橋オレたち何してるんだっけ?スイカ割り?」

「原現実を見ろ、あれは紛れもないニンジンだ、あえて言うならニンジン割りだな」

そんな一連の動作を見て原は口端をピクピクとさせながら苦笑いを浮かべ古橋に問い掛ける
ポーカーフェイスが売りな古橋も、この時ばかりは額にうっすら汗をかいていたのは黙っておこう

なんとか麺棒をなまえから取り上げ包丁で切るよう説得するが
その後もなまえの不可思議な行動は続き野菜の皮を剥くという概念がないのか包丁を手に、それもまたどこから出してきたのか分からない中華などで使うナタ包丁(この際もう包丁ならと…とツッコむ事を諦めた五人)で野菜を切る、イヤ、この場合は叩きつけ切る…という表現の方が正しいのだろうか…
何故ならば先程と同じく包丁(ナタ包丁)を両手で握り締め、まるで薪でも割るかのように野菜目掛けて振り落とす


そんなこんなで二時間という時間内に調理はまったく終わらず居残りで調理自習
そう、今に至るまでの経緯だ
しかも今回与えられた先生からの課題に五人達は絶句する、それは…

【3日間でなまえに料理の基本を1から教えカレーを一人で作れること】

それができなかった場合なまえだけでなく彼等五人の成績も関わってくる
全てはなまえ次第
彼等にとっては とんだとばっちりだ
しかも二日間料理部の都合により家庭科室を使われてしまったためこの一日しか貸してもらえなかった
テストは明日、明日までに彼女をまともな人間にしなきゃいけない
いよいよ彼等にも焦りが出る



「お前は何も考えるな、オレに言われたことだけをすればいいんだ。わかったな?」

頭を抱え椅子に座り込んだ花宮が口を開く

「う、うん!わかった!!」

「うわぁー花宮言い方エローイ」

「原、茶化すなら帰れ」

「えーだってオレもこのグループの一人だもーん」

「チッ、じゃあ黙ってろ!」

イライラは募るばかりの花宮だが時間が時間なだけにモタモタなどしておれず立ち上がり包丁を持つと

「もう一回言うぞ、次また同じ間違いしたら…わかってんな?いいか包丁は片手で持って片手は物、この場合はニンジンが動かないよう固定して切る」

なまえが解るよう丁寧に説明しながら目の前のニンジンをスパンと切る花宮

「やってみろ」

花宮は調理台を挟んで立っている、なまえに言う

「包丁は片手…ニンジンは固定…包丁は片手…ニンジンは…」

ブツブツと慎重な趣で包丁とニンジンに目をやる、なまえに原が

「なまえ、それじゃあ手切りそうで見てるこっちがこえーだけど…ネコの手やんなきゃネコの手」

ニンジンを鷲掴むような、なまえの危ない持ち方に気づき原が言う

「ネコ…?」

意味がわからずコテンと首を傾げるなまえに原は

「招き猫わかる?」

「うん」

「どんなポーズとってる?」

「…こ、こんな?」

片方の掌をグーにして自分の頬ら辺に持って行き少し首を傾げながら聞くなまえにその場にいた五人のハートに矢が突き刺さる
山崎に至っては顔が真っ赤だ

「こ、ここれが萌えってやつなのか…」

口元を手で覆いワナワナと震えボソリと呟く古橋を隣に立つ瀬戸はこう思う

(あ、やっぱコイツ変態だわ)

「それが、ネコの手って言って包丁使うとき物を抑えるこの手をさっきみたいなネコの手にすれば手を切らないで済む方法」

「なるほど、原くんってものしりだね」

「え、う、うん」

五人は同時に思った、知らないヤツの方が珍しくね?

「こ、これでいい?」

「そう、じゃあそのまま包丁おろして」

スパンッそんな小気味良い音がしキレイにふたつに分かれるニンジン

「や、やった!やったよ…!切れた!!」

たったニンジンが切れただけ、他の人はそう思うかもしれない
でも、彼等にとっては味わったことのない達成感で満たされる

「おぉ、やったな!なまえ!!」

なまえの背中を叩きながら自分の事のように喜ぶ山崎はニコニコ

「喜ぶのはまだ早ぇよ、バァーカ」

そう言う花宮も心なしか表情が柔らかい
そこから野菜を切るという作業はまぁなんとかクリアするが予想だにしない出来事が五人を襲う

「お前米ぐらいは流石にとげるだろ?」

「もちろん!」

そう言われホッと胸をなで下ろすのも束の間

「な、なまえっっ!?何して!」

叫ぶ山崎の目線の先を辿ってみると炊飯ジャーに入ってる米から泡がぷくぷくと出ている

「え、何ってお米洗ってる」

…洗って…だと?洗う?た、確かに洗って…る…洗剤で…米、洗ってる…

目の前で繰り広げられる映像に五人は、なぜかわからないが恐くなり腕に鳥肌がたつ

「て…っ」

「て?ネコのて?」

拳をふるふる震わせ小さい声で何か言う花宮になまえは聞き返す
なまえ以外の四人は瞬時に思う
((((あ、ヤバい…))))
そして瞬時に耳を塞ぐ

「テメェ、ホントに馬鹿だな!!!!この世界で洗剤で米洗う馬鹿どこにいんだよ!!!そんな馬鹿テメェぐらいだぞっっ!!!!!馬鹿!!!!!」

今日一番の大声で怒鳴る花宮に

「ヒィ!ごごごめんなさい!!!!」

今日一番ビビるなまえ

花宮に怒鳴られ涙目のなまえに山崎は肩をポンと叩き

「あと、ちょっとだから頑張ろうぜ。な?」

そう言って元気づけてくれる山崎になまえは

「うぅーザキ優しいーっ私ザキと結婚するぅうう」

余程山崎の優しさが心にしみたのか山崎の首に腕を回し胸の辺りに顔をスリスリし始める
いきなりの出来事に山崎はボンッ!と顔を真っ赤にしショート寸前

そんな一部始終を見ていた他四人は思う
((((山崎/ザキ 生きて帰れると思うなよ…))))

米とぎも洗剤以外は直すとこもなくスムーズに進んだ

当たり前だろ。そんなツッコミはしないでもらいたい…

「じゃあ、次は熱した鍋にバターを入れて具材を炒める」

「これで?」

そう言い持ち上げたのはまたもや麺棒
とうとう怒る気力がなくうなだれる花宮の代わりに原が口を開く

「なんで麺棒?」

「だってゴマごりごりする時とか使うでしょ?」

またしても意味不明な返答のなまえに花宮は

「…なまえオレ達が今作ろうとしてるのは?」

「カレー」

「そうカレー、ゴマじゃないカレーだわかるか?」

「うん」

「いい子だ、そいつはゴマがある時使おう今はカレーだからこっちを使うわかったな?」

「うん」

花宮は怒ることを止め褒めるという技を覚えた
どうやら、なまえは褒めると延びるタイプだと気付き
褒めるという技を覚えた花宮はその後もなまえを褒め倒し
原、山崎、瀬戸、古橋もことある事になまえを褒め倒す作戦に出た

そのかいあってか、そんな五人になまえも素直に言うことを聞きなんとか最終段階まできた五人

「ラストスパートだ。いいか、くれぐれも勝手な事するなよ、カレーのルーを入れてかき混ぜて終了だ何も難しいことなんてない。わかったか?くれぐれも勝手な事だけはするなよ」

「う、うん!わかった頑張る!」

(二回言った…)(二回言ったぞ…)(花宮二回言った…)(大事な事だから二回言ったな…)

ポチャン…ルーを鍋に入れグルグルとかき混ぜながらポツリとなまえが呟く

「ちゃんと美味しくできてるのかな‥。」

眉を下げ心配そうに鍋の中を見つめるなまえの頭をポンポンと撫でて

「大丈夫、絶対美味しいよん」と言う原に

「オレが教えたんだ、マズいはずがねぇだろバァーカ」

「ひゃ…いよ」なまえの頬を抓る花宮

「それにこのカレーにはなまえの愛情が入ってる、違うか?」

「うわ古橋そういうキャラだっけ?」

「ごめんオレも今鳥肌たったわ」と続けて言う古橋、山崎、瀬戸

そんな五人の優しさに目頭が熱くなるのを感じる、なまえ

「ふへ、ありがとう…」

「ニヤニヤしてんな気色わりぃ」

花宮の悪態も今のなまえには耳に入らず止められない頬の緩み



そしてようやく完成
ドキドキで人数分よそるカレー

「で、では…いた、だきます」

六人はスプーンに乗っているカレーを見つめゴクリと固唾を飲み…

そして口をあけパクッ
その様子を心配そうに見つめる、なまえ

「ど、どうかな…っ」

「「「「「う…、うまい」」」」」

満場一致の反応になまえも急いでカレーを食べてみると

「お、美味しい!」

苦労して作ったカレーだからか今まで食べたことのない美味しいカレーに感動する

その後は皆味を噛みしめるように黙々と食べ続けた

調理から約七時間、外はもう真っ暗で彼らの長い長い一日が終わる




家につきお風呂から上がり部屋に戻るとチカチカ光るスマホ…見れば五人からの応援メッセージが

【なまえなら大丈夫
てか、原くんが応援してるから絶対受かるよん】
ありがとう、原くん…。

【なまえ!お前ならきっと出来るから明日はリラックスしていけよ!
それと結婚はもっとお互いを知ってから…でもどうしてもというならオレは構わんぞ】
ありがとうザキ…結婚?ザキ誰かと結婚すんの?よくわかんないけど、おめでとう。

【頑張れ】
シンプルな文面瀬戸くんらしいや、ありがとう。

【山崎には渡さない】
 …?古橋くん送る相手間違えた?

【テメェの馬鹿さ加減には呆れる、でもまぁ一つお前に称賛を挙げるなら諦めなかったことぐれぇだな、明日ヘマでもしてみろ許さねぇからな、それと夜遅くまで起きてんじゃねぇぞ】
ツンデレだな花宮くん、今日はホントありがとう、おやすみ。

文面なんかじゃ伝えきれない感謝の気持ちは明日直接伝えよう…。
そう心の中で思い静かに目を閉じる。

私って愛されてるな…本当バスケ部のマネージャーでよかった。明日皆のために頑張らなきゃね


皆からの応援メッセージでホカホカになった胸と一緒になまえは今までにない幸せな夢を見た


次の日テストは皆のお陰で無事合格
皆に“おめでとう”と言われれば堪えてた大粒の涙がぼろぼろと流れしゃくりあげながらありったけの感謝の言葉を伝えた

「皆ホントありがとう!大好き!」

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