Girl on Fire
海南大付属高校の文化祭最終日
招待試合や模擬店などで疲れたバスケ部の2年生の面々は反省会と称して、学校近くのファミレスに集まっていた。
鏡で自慢の髪型を直しながら武藤が呟く。
「何で各務がここにいるんだよ」
各務と呼ばれた女子が、切れ長の目で武藤を一瞥するとアイスコーヒーを啜って応えた。
「絵里香の付き添い」
「何だそれ。どうせならお前じゃなくて、高濱の方がよかった」
呆れ顔の武藤に、彼女は続ける。
「一人では海南に行けないから、どうせヒマでしょって連れて来られたワケですよ、武藤くん」
「"くん"とか付けるな。お前に言われると気持ち悪くてしょうがねえ」
「ああ!何が気持ち悪いだコラ!自慢の髪に水掛けんぞ!!!」
水に入ったコップに手を取ったところで、すかさず高砂が止めに入った。
「まぁまぁ、各務。ちょっと落ち着こうか」
宥めにかかる宮益。
コップから手を離したのを確認して、高砂、宮益が胸を撫で下ろす。
そのやり取りを傍観していた者が3名いた。
牧とその彼女の絵里香、そして1年の神だった。
「ねぇ、瑠璃子。どうして彼氏作らないの?」
何を言い出すんだ突然、この女は、といった目で絵里香を見た。
「今、その話関係ある?」
「あれ?何かおかしい事聞いた?」
武藤との小競り合いを始終見ていたくせに、どこからそんな話が出てくるのか。
「黙ってりゃ、美人なのにな」
どうも武藤は一言多い。
彼なりに彼女のクールビューティーな外見に関しては評価しているようだ。
「体だけ関係の男はいるけど」
思いがけない発言に、武藤、高砂、宮益が飲み物を吹き出し、神は固まっていた。
牧と絵里香は、ああ、またやった、と。
「ってか、お前、そういうこと言うなよ」
口を拭いながら、武藤が注意する。
「何で?別に隠すような事じゃないし」
悪びれる様子もなく応える彼女に、返す言葉がない。
「メリットあるんですか?」
気まずい沈黙を破るかのように、神が突然口を開いた。
その場にいた人間の視線が注がれる。
「お互いに都合のいい時だけ会って、するだけだから。それ以外は何もないから」
言いきりやがったよ、コイツ。と、言いたげに武藤は彼女を見やった。
「世間一般的な男女交際の要素は必要ないと、いう事ですね?」
「そういう事になるね」
神が積極的に発言している姿に、バスケ部の上級生達は意外さを感じていた。
「付き合った事がないとか、そういう事ではないんですよね」
「・・・中学の頃は彼氏みたいなのはいたけど。いろいろと面倒くさくなってね」
グラスの中のアイスコーヒーはすでになく、残った氷をストローで突いて彼女は話す。
「束縛されたくないんだよね。自分が主導権握りたいタイプだし・・・」
「そりゃ、男の方が尻込みするわけだ」
武藤の指摘に、宮益も続く。
「各務のバイタリティーに付いてこれる相手じゃないと無理なんだろう」
彼女は腕を組んで、二人の意見に頷いていた。
「じゃあ、瑠璃子さんに付いていける男だったら、付き合ってもいいって事ですよね?」
「付いてこられるんならね」
そう言って席から立ち上がった神は、彼女に近づくと、手を差し出す。
「瑠璃子さんに付いて行きます。だから付き合って下さい!」
「「「「えー!?!?!?」」」」
彼女意外の人間が唖然としている中、神はまだ手を差し出して笑顔で返事を待っていた。
「まさか告白してくるとはね・・・」
「返事もらえませんか?」
「見かけによらず根性あるね、神くん」
苦笑しながら、鞄から財布を取り出し、千円札をテーブルの中央に投げた。
「よし!じゃあ、あたしに付いてこれるか、試しに行こうか!!」
差し出されたままになっていた神の手を取って、彼女は店を出て行こうとする。
「どこに行くんですか?」
「ん?どこって、あたしン家」
「瑠璃子さんの家に行くんですか?」
「そう、付き合うなら確かめたい事があるから」
いつの間にか、店の外に連れ出されていた。
「確かめたい事って、もしかして・・・」
「神くんが彼氏として、あたしを満足させてくれたら、もうそういう男はいらないでしょ?」
制服のネクタイを掴んで、神の顔を引き寄せた。
「どうする、家にくる?それとも、やめる?」
数秒後、神は自ら彼女にキスをした。
「ご期待に添えるようにがんばります」
残された人々はあまりの急展開に、頭の中の整理がつかないまま
夕日の中、手を繋いで歩いていく二人をファミレスの窓から見送っていた。