海を奏でるお姫様《本編・短編》

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ひらりひらりと風に運ばれてきたもの…それは、麦わら帽子だった。どうして麦わら帽子がこんなところに?
私は風になびかれていた帽子を、両手でキャッチする。麦わら帽子はまるで、どこかで戦ってきましたとでも言うかのようにボロボロだ。だけど同時に、誰かに大切にされているのであろう帽子の思いも伝わってくる。


『…変なの。ただの、麦わら帽子なのに』


帽子の思いが伝わるなんて、おかしな話。さっきから変なことばかりが起きすぎているから、そろそろ頭がおかしくなったのかな。
その時、光の方に影ができる。衝動的に光があった場所へ視線を移すと、そこには知らない人が私のことを目を見開きながら見つめていた。


「…君は?」


声をかけてきたのは、セーラー服を思わせる白い服を着た男の人。それから、“MARIN”と書かれた白い帽子。どこかで見たことがあるような…そんな気がした。私は慌てて持っていた帽子を、腰につけていたベルトに引っかける。


「どうしてこんなところに?」


それはむしろ、私が聞きたいことなんです。死んだと思ったらジャングルの中にいたんだから。


『…迷子に、なっちゃって』


「迷子?」


あ、疑われたかな。そうだよね。よくよく考えてみれば、こんな森で迷子なんておかしいじゃないか。


「家がどこにあるか、わかるかい?」


『…わかりません』


「…そうか。そうだな…よし、一緒に海軍の基地まで行こう。そこにいけば、君のことが何かわかるかもしれない」


『…基地?』


突然の提案に、思わず眉を寄せる。何を考えているのかわからない。それが顔にも出ていたのだろう。彼は慌てて、私に訴え始める。


「あ、別に捕まえたりするわけじゃないぞ。基地で君のことを調べれば、家にだって帰れるかもしれないんだ」


こんな見ず知らずの小娘に、ここまでしてくれるとは。多少の驚きを覚える。ここで断れば、この人のこんな優しさを無駄にするような気がした。どうせここで一人でいても何もできない。それなら、付いていくぐらいならいいかもしれない。私は彼の目をじっと見つめがら、頷きだけを返す。


「そうか。それなら案内しよう」


どこかほっとしている彼が、先を歩いていくので私も彼の後ろからついていった。そういえば今思ったけど…何で日本語?別にそこまで気にすることでもないと思ったので、この疑問はすぐに私の頭からは消えていった。

死ぬことを願った私は、なぜ生かされたのだろう。その真実を知るのは、もう少し先の話。



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