海を奏でるお姫様《本編・短編》

□003
3ページ/4ページ




連れてこられたのは、どこかのホテルのような場所。なるがままに彼と共に中へ入っていくと、そこにいるのは沢山の人達。そしてその中心には、大柄の男。周りの人を従えさせているところを見る限り、結構お偉い人なんだろう。


「ベラミー、面白い女を拾った」


「へぇ…なかなかいい女じゃねぇか」


そしてそんなお偉いこの男が、“ベラミー”というらしい。舌を出しながら私を品定めするその姿はまるで、ハイエナのようだった。


「どこでこんな女拾ってきたんだ?」


「海軍基地の前だ」


「基地?…まさかお前、海軍の人間か?」


目に鋭さが宿るのに気づく。この人達は、海軍を嫌っているようだ。そうでなければ、この鋭さは生まれない。ていうかそれってつまり、海軍を敵だと思っている人…悪い人って意味じゃないか。


『何か関係、あるんですか?』


「フッ…ハハッ!関係あるか、だと!?当たり前だろ!俺はハイエナのベラミー、海賊だからな!」


『…海、賊』


まさかこんな場所で初めて海賊に合うとは。確かに言われてみれば、この男はすごく海賊っぽいかもしれない。あくまで、私のイメージでしかないけど。


「何だ?こんな島で育っているのに、海賊は初めてなのか?」


『…私は、この島で育ってきたわけではありません』


むしろ、この世界ですらないんだけどね。そんなの言えるわけがない。どうせ笑われて終わりだろうし。


「へえ…お前、何者だ?」


『そう、ですね…旅人、みたいなものです』


「おめぇみたいなチビが旅だと?ハハッ!そりゃおもしれぇ」


確かに笑われるのは無理もない。むしろ、よくこの人はこれを嘘だと思わないな…と不思議に思う。もう少し疑うことを覚えればいいのに。


『私は何でここに連れてこられたんですか』


「お前、名前はなんて言うんだ?」


『…ニノ』


何で急に名前?とも思ったが、言わないと何だか嫌な予感がしたので嫌々口を開く。私のこの名前は、母が唯一くれたもの。まだ私のことを愛してくれていたときに名付けたものだから。だからかな…名前を言うのは少し躊躇ってしまう。


「ニノ、おめぇをうちの仲間にしてやるよ」


『…え?』


「旅人も海賊も似たようなもんだろ。もちろん、返事はイエスだろ?」


何、この急展開。そもそも旅人じゃないし。それになぜか脅迫だし。それから、余計なお世話。本当にあなた達、精神年齢何歳ですかと聞きたいよ。


『…考えます』


「ハハッ!別にオレはそれでいいぜ。ただ、あんまり待たせればどうなるかわかってるよな?」


『…はい』


だから、その脅迫じみた台詞やめようよ。私は心の中で、長い長い溜め息を吐いた。
その後、またベラミーの仲間みたいな人が現れると彼に何か古びた紙を渡していた。ベラミーがその紙を見たときに口角を上げていたのを、私は見逃さなかった。



.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ