幽☆遊☆白書

□序章
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南野秀一−−その正体は、妖狐蔵馬



これは、彼が中学3年生の頃の話だ



「まただってよ」



最近の噂話で、彼のクラスメイトは盛り上がっていた



「兄貴の学校の生徒も、1週間くれぇ連絡取れねぇって」



「俺も知ってる、それ」



「街、出たんじゃねぇの?つまんねぇもん、ここ」



「神隠しってのどうだ?」



「賛成!」



「おめぇ好きだな、そういう話」



「あんた程じゃないよ」



喜多嶋「南野くん!きみ、どう思う?」



ちょうど教室を出ようとしていた彼を、クラスメイトの喜多嶋麻弥が呼び止めた



赤い短髪に、緑の瞳を持つ彼は振り返る



南野「単に家出じゃないかな」



喜多嶋「つまんない!もっと他にないの?宇宙人誘拐説とか。秘密教団とか、次元の裂け目とか」



南野「リアリティ感じないね」



喜多嶋「認識甘いよ、きみ。宇宙人は、きみのすぐそばまで来てるのだよぉ」



「気に入らねぇ」



「諦めろ、麻弥ちゃんは南野くんしか見えてないって」



「このっ!」



男子生徒が投げた消しゴムは、彼にあっさりとキャッチされてしまった



背中を向けていたのに、だ



喜多嶋「なに?」



南野「ううん、なんでもない」



掴んだ消しゴムを見つめていた彼だったが、苦笑すると教室から出て行った



夕方、失踪者について考えながら廊下を歩いていた彼だった



その時、以前半殺しにしたはずの妖怪が報復を宣言しに、目の前に現れた



この様子を、喜多嶋麻弥に見られた



どうやら蔵馬のそばにいた事で、霊感が強くなってしまったらしい



喜多嶋「ずっとオカルトとか好きで、そういう力持ってる人、探してたのよ!それが初恋の人だったなんて、ドラマティックだわ」



南野「!」



喜多嶋「・・・やっぱり気付いてなかったのね」



そう、喜多嶋麻弥は南野秀一に恋心を抱いていた



帰り道、ずっと自分の後ろをついて歩く喜多嶋に、言葉を切り出す



南野「もう、家に帰りなって」



喜多嶋「だって、まだ返事聞いてないもん。はっきり言ってくれていいんだ。心の準備は、できてるから」



南野「・・・・・・悪いけど・・・」



喜多嶋「・・・・・・わかった。帰るね」



気付いていた



自分がフラれるという事に、喜多嶋は気付いていた



わかっていても、覚悟を決めていても



やはり、辛い・・・



家に帰ろうと背を向けたが、南野に肩を掴まれて振り返る



目に涙を溜めながら



南野「離れるな」



冷や汗を流し、緊張感を持った顔で周囲に視線を走らせる



今の彼は南野秀一としてではなく、蔵馬として緊張感を持っている



蔵馬〈いつの間に・・・?もうそこまで来てる。互角か・・・いや、ヤバい〉



喜多嶋を抱え、その場から飛び退く



仕掛けられた攻撃をかわしたのだ



姿を現したのは、黒装束の小柄な男



「よくかわしたな」



蔵馬「大丈夫か?」



喜多嶋「うん。南野くんこそ、大丈夫?私、結構重いのに・・・」



蔵馬「そういう問題と場合じゃない」



再び向かってくる彼に、蔵馬は喜多嶋を離すと雑草を剣に変えて迎え撃つ



蔵馬「逃げろ!」



小柄な男と斬り合いながら叫ぶ蔵馬だが、彼女はその場に座り込んだまま



2人は高く飛び上がると、この場から消えてしまった



喜多嶋「いくらなんでも・・・夢よね、これは・・・」



呆然と見送った喜多嶋



そんな彼女に、誰かの腕が伸ばされた



「・・・・・・」



セーラー服に身を包んだ少女が、それを影から見つめている



黄色いスカーフと灰緑の髪が、風で揺れた










一方、木々が生い茂るそこで、蔵馬と彼は斬り合いを続けていた



「良い腕だ!貴様のような使い手が、なぜ八つ手の手先に甘んじている!?」



蔵馬「なにっ?八つ手?この街に奴が来ているのか!?」



「貴様、八つ手が差し向けた討手じゃないのか?」



蔵馬「それでわかった・・・剣を仕舞え。オレはこの街の先住者だ」



「くっ・・・間抜けな話だ。思ったより、焦っていたらしい・・・」



そう言った彼の足元には、血が滴り落ちている



蔵馬「血?」



その場に倒れた彼に、蔵馬は「おい!」と声をかけながら駆け寄る



だが気を失っている彼からは、返事がなかった



蔵馬〈妖怪八つ手・・・今のオレの力では倒せない。厄介な事になってきた〉



「・・・」



また、彼女は見つめている



だが蔵馬は、彼女の気配を感じてはいないらしい



彼を抱えると、この場を立ち去る



そんな蔵馬の後ろ姿を、桜色の瞳が見つめていた



蔵馬の背中が夜の暗闇に消えると、彼女も背を向けて歩き出す



夜の暗闇に、彼女の姿も消えた
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