幽☆遊☆白書
□第1章
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「ねぇ、咲良さんって南野くんと」
茉莉「付き合ってない」
果たして、入学してから何度こんな会話をしたことか・・・
文武両道な美男子、そりゃあモテるだろう
だがそんな彼の近くには、咲良茉莉という少女がよくいる
付き合っているのだろうかと思う者は、少なくはない
だが、正確には・・・
南野「咲良さん。お昼、一緒にどうですか?」
茉莉「・・・・・・」
正確には、彼の方から彼女に近付いてくるのだ
黙ったまま屋上に向かう彼女に続き、彼もやって来る
茉莉「どういうつもり、妖狐蔵馬?」
南野「学校では、南野秀一でお願いします」
茉莉「・・・答えなきゃ呼ばない」
南野「巫女の血統と仲良くなっておいて、損はないかと思って」
茉莉「嘘くさい」
南野「半分は」
茉莉「もう半分は?」
南野「ただの好奇心」
茉莉「・・・」
南野「そんな疑うような目をしないで欲しいな。わりと本気だったので。あと、できれば睨まないでもらえると嬉しいかな」
茉莉「・・・・・・ハァ・・・南野くんって、よくわからない」
南野「きみも十分よくわからない」
終始笑顔でいる彼に、茉莉は不機嫌そうな顔をする
彼に近付かれるせいで、こちらは鬱陶しい毎日を送っているのだ
睨まれても文句は言わないで欲しいと思うのが、茉莉の本音だった
だが彼の言う、茉莉がよくわからないというのは、実は彼の本音
ひとりで過ごす事が多いように見える彼女は、友達を作る事もしなければ、誰かと笑い合ったりもしない
本を読んだり、窓の外を見ながらボーッとしていたり
授業中でも、真剣に受けているかと思えば居眠りをしたり、窓の外を見ながらボーッとしていたり
当てられても難なく問題を解いてしまうのだから、素直に凄いと感心してしまう
茉莉「・・・・・・本当、よくわからない。普通の妖怪は、私から離れるんだけどね。巫女なんて存在、妖怪達にとっては天敵でしょう?」
隠してはいるが、茉莉はかなりの霊力を持っている
賢い奴なら、その霊力を感じただけで逃げ出すだろう
そうじゃなくても、巫女という肩書きだけでも、普通の妖怪は近付かない
それをわかっている彼女からしてみれば、蔵馬の行動は予想外なのだ
南野「八つ手を破魔の矢の一撃で消し去るほどだからね、きみは。敵にしたくないのは本音だ。だから、仲良くなっておいて損はない。だろ?」
茉莉「最初の話に戻ってる」
南野「そうだっけ?」
クスクスと笑う彼を見て、絶対にわざとだと睨む
こんな風に彼に関わられる毎日が続くのかと思うと、少し疲れる
だが、そうはならなかった
あんなに楽しそうに、からかうようにしてわざと関わってきていた彼が、ある日からあまり声をかけなくなってきた
逆に調子が狂う
南野「咲良さん」
茉莉「?」
南野「ちょっといいかな」
久し振りに声をかけてきた彼は、とても真剣な様子で彼女を呼び止めた
やって来たのは、彼の住まい
だが家には誰もおらず、広いだけで寂しい環境に見えた
南野「紅茶でいいかな?」
茉莉「いいけど、短い話ならいらない」
南野「・・・少し長くなる」
茉莉「・・・じゃあもらう」
彼が淹れた紅茶を一口飲むと、ソーサーにカップを戻す
目の前に座る彼は、紅茶の水面を見つめている
蔵馬「オレの事は、きみは知ってるのかな?」
茉莉「・・・・・・妖狐としてのあなたなら。魔界でも、有名な盗賊だったし。でも15年前、ハンターにやられたって聞いてた」
蔵馬「ああ。当時オレは、霊体の状態で人間界に逃げ延びた。そして、ある女性が妊娠していた胎児に憑依融合した」
茉莉「で、南野家の子供として生まれ、今の南野秀一となった。でいいの?」
蔵馬「ああ。10年くらい我慢すれば、妖力も戻る。そうすればオレは、夫婦の前から姿を消すつもりだった」
茉莉「・・・」
蔵馬「父親はもう、ずっと前に死んだ。母親は・・・今は病院にいて、入院してる。母さんの病気、治らないんだ」
茉莉「!」
蔵馬「・・・・・・霊界で保管されている、闇の三大秘宝は知ってるかい?」
茉莉「降魔の剣、餓鬼玉、暗黒鏡。それが何?」
蔵馬「・・・・・・明日、それを盗みに行く」
茉莉「ッ・・・!?」
突然の宣言に、飲んでいた紅茶を吹きかける
なんとか飲み込んだが、軽く咳き込んでしまう
茉莉「けほっけほっ・・・本気?」
蔵馬「ああ」
茉莉「・・・・・・ひとりで?」
蔵馬「いや、あと2人。オレの目的は暗黒鏡だけだ」
茉莉「まさか、使うつもり?」
蔵馬「それしか、あの人を救う道がない」
茉莉「馬鹿じゃないの?例えそうだとしても、あとの事を考えなさいよ。それに、どうして私にそれを言うの?」
蔵馬「なんでかな・・・自分でもよくわからない」
茉莉「・・・・・・本当に馬鹿ね」