ワンピース《ロー》

□政府の少女兵
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それは、偉大なる航路(グランドライン)のとある島での出来事だった



ある酒場でバカ騒ぎをしていた海賊がいた



それを他人事のように傍観していた、別の海賊



当然だ、同じ海賊とはいえ他人は他人だ



そこに、小柄な人物が店に入ってきた



漆黒の髪の、着物を着た人物



服装からか、その長く伸びた前髪のせいか、入っただけで注目を浴びた



妙に違和感を感じないブーツの爪先は、バカ騒ぎをしている海賊の方へと向く



だが着物の人物は海賊を通り過ぎ、その後ろにあったカウンター席に腰掛けた



適当に注文をしたらしく、口が数回動く



さすがにバカ騒ぎをしている海賊のせいで、声までは聞き取れなかった



だが、彼は一瞬だけ見た



前髪の隙間からこちらを見てきた、翡翠の瞳を



細められたその瞳は、通り過ぎ様にちらりと横目で見てきた



彼−−ハートの海賊団・船長は、酒の入ったグラスを片手に見つめる



トラファルガー・ローには、その人物に見覚えがあった



「あぁ!?酒がもうねぇだと!?」



バカ騒ぎをしていた海賊のひとりが、店に響くような大声で怒鳴った



ロー「・・・・・・ハァ・・・」



面倒事になりそうだ、とため息が出た



「も、申し訳ございません!」



怯えた様子で頭を下げるバーテンダーの側には、あの着物の人物がいた



カウンターの椅子をくるりと回転させ、後ろに肘をついて口を開く



??「酒を切らしたくらいで、一々喚くなよ。うるせぇから」



「あぁ!?」



男のような荒っぽい口調とは裏腹に、女のような少し高いアルトが言葉を紡いだ



??「お前、海賊か。喚くなら海の上だけにしとけ。海軍が喜んでお前らの船を沈めてやるよ」



「なんだとぉ!?」



明らかに、喧嘩を売っているような話し方だ



やはり思っていた通り、面倒事になった



「てめぇ、ぶっ殺す!!」



??「そういう三下な台詞は」



横凪ぎに払われた刀を、首を後ろに反らすことで避けた



ガッ



「いって!?」



キィンッ



??「死亡フラグだ」



こちらに踏み出してくれたおかげで、目の前に来た海賊の足を踵で踏んだ



ローヒールではあるが、それでも力強く踏まれれば痛みは来る



怯んでいる隙に椅子を回転させ、カウンターテーブルにあった何かを手に取った



そして鳴り響いたのは、甲高い金属音



ベキンッ



「なっ!?」



刀が折られ、驚きから動きが止まる



カウンターの椅子から降りてしゃがむと、足を払った



「うおっ!?」



後ろに傾いた体に向かって蹴りを入れてやれば、呻き声を上げて勢いよく倒れた



その体に馬乗りになり、手にしていたそれを喉元に添えた



食事によく使われる、シルバー食器のナイフだった



??「チェックメイト。まあ、本来ならここで殺してやってもいいんだけど・・・一応ここ、飲食店だしね。他の客に迷惑かけるつもりはない。もっとも、その客の中に、何かやらかす輩がいなければ・・・だけどな」



また、翡翠の瞳がこちらを見た気がした



トラファルガー・ローと、その一味がここにいると知っているかのようだ



いや、実際、気付いているからこそ言ったのだ



これは忠告だと



??「それに、殺しは控えるようにって言われたからな。あのバカに」



海賊から退くと、懐を漁る



??「ご馳走さん。騒ぎになって悪かった。これ、お詫びも込みな」



そう言って袋をカウンターに置き、店から出て行った



「い、いつもどうも」



ロー〈いつも?〉



その言葉に引っ掛かり、ローはカウンターに歩み寄る



ロー「おい、バーテン」



「あ、はい」



ロー「あいつ、いつも来るのか?」



「はい、何度か。昔はもっと無口で無表情で、お構い無しに海賊を殺してたんだけどね・・・変わったよ、12年前から」



ロー「12年前?」



「あんたらも海賊なら気を付けた方がいい。クローゼは政府の殺人人形だからな」



ロー「クローゼ・・・?」



「まあ、前と比べれば、かなり丸くなったけどな。それでも、戦場に立たせれば命令ひとつで人を殺す。冷酷無慈悲な人形だって聞いてるよ」



ロー「ホー・・・?」



声色としては興味が無さそうに聞こえる



だが、船員の誰もが呆れた顔をした



振り返り、すでにあの人物の姿が見えなくなった出入り口を見ている我らが船長の顔は・・・



とても楽しそうな、怪しい笑みを浮かべていたのだから−−
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