〜小説〜

□『縁側にて』
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「にゃあ」



「・・・・沖田、さん?」



新選組一番組組長、撃剣師範筆頭の沖田総司。


その肩書とは程遠い声が聞こえた縁側には、

とある事情で新選組屯所に居候している少女―




雪村千鶴がお団子の皿を盆に載せて立っていた。






「やあ、千鶴ちゃん。」


「・・・こんにちは、沖田さん」


「にゃあ」


「・・・」


「にゃー」


「・・・・・」



先程から沖田は猫の鳴きまねをしている。


以前屯所内に入り込んだ猫のおかげで大騒動になったというのに・・・


彼の両手によって中空へと掲げられているのは薄茶色の子猫。


また懲りずに入ってきたのか・・・

沖田が勝手に連れ帰ってきたのか・・・


どちらにせよ、千鶴の表情が少し曇るには十分な理由な気が・・・。




「沖田さん、その子猫どうしたんですか」


「知らない間に着いてきちゃって。


子猫なら、大して問題にはならないんじゃない?」



そうだろうか・・・。

子猫も案外馬鹿に出来ない気がしてならない千鶴をよそに、沖田は自身の唇を子猫に寄せる。



「・・・沖田さん、猫がお好きなんですか?」


「・・どうだろう、わからないな」



でも・・・と、抱えていた猫を膝に下ろしその毛並みを整える。



「どっかの誰かさんたちみたいに、ご主人に忠実すぎる犬よりかは、好きだけどね」


「・・・は、ぁ」


千鶴の頭にはその“どっかの誰かさんたち”が思い浮かんでいたが、

彼が言葉を濁したことを考え口に出すのはやめておくことにした。




「そんなことよりさ。その手に持ってるもの、僕のためにあるんでしょ?」



珍しくにっこりと、悪意の込められていない心からの笑顔を沖田から向けられた千鶴は、本題を切りだす。



「このお団子、島田さんが買ってきてくださったんです。

でも島田さん、山崎さんとのお仕事が入ったみたいで食べれないとおっしゃるので・・・。

沖田さんが縁側でくつろいでいらっしゃるみたいだから持っていって一緒に食べてください。・・・と」



へぇ・・、気が効くじゃない。


と、さらに笑みを深めた沖田は、子猫を抱いてどこかへ歩きだす。


「あ、あの・・・沖田さん?

その子猫・・どうするんですか?」



「どうって・・おうちへ帰すんだよ」


「か、帰すって・・・ここで離してはいけませんよ?」



わかってるよ。


と、千鶴のいらないおせっかいつきの心配の声に、沖田は困ったように笑う。



「そろそろ家に帰らないと。お母さん猫も心配するんじゃない?」


「・・・そうですね」



子猫が沖田から解き放たれ、よたよたとした足取りから、ちゃんとした走りになるまでその後ろ姿を見守る沖田の背中に、

千鶴は沖田の違う一面をまた垣間見た気がしていた。



“無意味な殺しはしていないと思う”



その言葉は、決して嘘ではないのだ。


千鶴は思う。

彼の根は優しく、思いやりのあるものだ、と。




「それに―」
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