〜小説〜

□『羽舞う空に』
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「いくよ、一君」


「来い、総司」



ぱちん・・・っと、もう二十回は超えているであろう餅を叩く杵の音。


ふぅ・・と千鶴は額の汗を拭うと、なにやら楽しそうな声が聞こえてくる方向へと視線を移す。



「まだまだだね!」


「今のはまぐれだ。調子に乗るなよ」



・・・・物凄い勢いで羽つきしてる。



「・・・す、凄い」


思わず感嘆の声を漏らす千鶴に、臼の中の餅をひっくり返す原田は苦笑い。



「無駄なことに全力を出す総司に斎藤は付き合ってやってたが

いつの間にか二人とも熱くなってる・・・・ってとこだろうな。」



「そ、そうみたいですね・・・」



ぼんやりとその姿を見つめている千鶴に、陽気な声がかかる。



「おぉ!餅つきか!おら、俺が変わってやんよ千鶴ちゃん」


「おはようございます、永倉さん」


「おう!おはよう!」



千鶴のため・・・というよりは自分がやりたかったのだろう。


千鶴がまだ大丈夫です、と言う前に永倉はその手に杵を持つとさっそく餅をつき始める。



「なんつーか、新八がついた餅は固くなりそうだな・・・」


「んだと左之!?んなこと言ってっと食わせねぇぞ!」


「あははは・・・」



新年早々、賑やかなものだ。


千鶴は既に言い合いを始めている二人を微笑ましく思っていると、少し物足りない気がしてくる。



「あれ・・平助君はどうしたんですか?」


「ん?あぁ、平助なら―」




原田が永倉との言い合いを一時中断し、千鶴の質問に答えようとしたその時・・・




「あ」


「・・・!」



沖田の呆けた声が響く。



その頭上では、おかしな方向へと軌道を変えた羽が



「おはよ〜・・・あだっ」



部屋から眠たげに出てきた藤堂の頭に当たり



「・・・・うわぁ」


「ふ、ふふ副長!!!」



土方の部屋の障子を突き破り中へ。


沖田のやらかした感の強い声に


普段では考えられないくらいの動揺を見せつつ、全速力で駆けだす斎藤。



「だ、大丈夫平助くん!?」



・・・にも増して心配そうに藤堂へ駆け寄る千鶴。



なんというか、嫌な予感しかしないけれど・・・。



「い・・・ってぇな」


「赤くなってないみたいだから・・・大丈夫だと思うけど・・・冷やしたほうがいいよね」


・・・が。


怒り心頭な藤堂には千鶴の声は届かず。




「何なんだよ!羽つきやってたんじゃねぇのかよ!石みたいに堅かったんだけど!」



指を差され怒鳴られる沖田の表情はどんどんと曇る。


「嫌だな、ふつうの羽だってば」


「嘘つけ!めっちゃ痛かったし!」



あぁそうか。


と、沖田はまた一人勝手に納得し、にやり・・と不気味な笑顔を見せる。



「平助、一緒にやりたいんなら素直に言えばいいのに。これだから素直じゃないキミの相手は大変なんだよ・・・」


「はぁ!?素直じゃねぇのは総司!お前が屯所一・・・いや、京一だろうが!!」



「へ、平助くん、落ち着いて・・!」



そんなことどうでもいいけどさ・・。


はあ・・、と沖田がため息をつくのと同時に


「てめぇら!!!!正月から何やってんだ!!」


「ふ、副長これには訳がありまして・・・・!」




土方の怒号に斎藤の制止の声。



よく見たら、斎藤は土方にへばりつき、何とか抑えようとしているらしいが

どうにも怒りは収まらない。




「おいおい、お前ら近所迷惑だから落ち着け」



「ど、どうしよう・・」
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