〜小説〜

□『いじめと説教』
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「嫌だっていったら嫌なんだよ」


「だからそれでは駄目だと言っている。」



「・・・・沖田さんと、斎藤さん?」



夕餉後。


千鶴が片づけを終えて自室へ戻ろうとすると、広間から光が漏れていることに気がつく。



「体にもいい、味も香りもいい。


・・・何が嫌だというのだ」



「だーかーら、存在自体が嫌だって言ってるでしょ!


葱がそこにあるだけで食べたくないんだって」



「それは誰の飯でもか」



「・・・それ、どういう意味?」


「・・・たとえ局長の作ったものでもかと聞いている」


「それは話がまた別でしょ」


「同じだ」









――――――――――――





「あ、あの・・お二人ともどうかしたんですか?」



恐る恐る千鶴が声をかけると、睨みあっていた二人の表情がほんの少し緩む。


「千鶴ちゃ〜〜ん・・・!」


「わわっ」



表情が緩んだ、というのは正確には斎藤だけで、沖田は今にも泣きそうな顔で千鶴にすがりつく。



「おっ沖田さん!?」


「一君がいじめるの」



「・・・は?総司あんたが―」



「千鶴ちゃん、酷いと思わない?」


「あ、あの・・」




沖田の言っていることがよくわからないうえに、デレデレな態度に困り果てて、斎藤の顔を仰ぎみる。


「あの、斎藤さん、なにが・・・」



「・・・・総司が夕餉の味噌汁を残しただろう」



斎藤はその様子に大きな溜め息をつくと、ポツリポツリと話し始める。



「葱が入っていた。ただそれだけで丸ごと残すことはないだろう。それに・・・」



「・・・それに?」



「あの味噌汁は雪村が作ったものだ。

局長をも唸らせる味の味噌汁を丸ごと無駄にするとは・・・!」




「・・・一君こそおかしいでしょ、そこまで来るとさ」




「・・・何がだ。雪村に言われるのはともかく、あんたにだけは言われたくない」


「いやだって一君、千鶴ちゃんの作ったものとその他の差があるってことでしょ」


「あんただって局長とその他では差があるだろう」



「近藤さんは新選組の局長、この子は部外者」



「・・・そう、だが。



・・・・いや、この間あんたは雪村は役立つから置いておいてもいいと言っていたではないか」



「えー?そうだっけ」




「・・・・」




あれ・・?


葱の話ってどこにいったんだろう・・



千鶴は沖田の腕の中、なんとか冷静さを取り戻すと、本題から話が大きくずれ始めていることに気がついた。



・・・・これって、元に戻すべきなのかな。




「そもそも、あんたの態度は最近目に見えて変わった」


「それ、平助と左之さんにも言われたんだけど?別に何も変わってないと思うけどな」





その言葉に斎藤は少し考えるそぶりを見せ、そして何かを思いついたように口を開く。




真顔で、真剣に。






「・・・総司」


「何」



「・・・・例えばの話だが」



「・・・何、急に」



「金平糖と雪村、どちらを選ぶ?」



「・・・・・・・・・は?」




「さ、斎藤さん!?」



千鶴は思わず自分の前で組まれている腕をほどこうとするが、まったくもって微動だにしない。


・・・沖田さん、離してはくれないのね・・・・・。







「ねぇ一君」


「・・・なんだ」



「人間とお菓子を比べるなんて無理があるんじゃない?」



「俺は例えばの話と言ったはずだ」


「斎藤さん、おかしな質問はやめてください!」



「おかしい?なにがだ」


「だ、だって・・・」




天然なのかなんなのか・・・



斎藤の恐ろしいところは、基本的にその発言が大真面目に放たれている、というところだろう。
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