〜小説〜

□『桜吹雪に想いを乗せて』
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「ありがとうございました」



一番組と共に出た巡察の途中、千鶴はいつものように町の人々に父についての情報を求めていた時。



ふと視線を感じて後ろを振り返ると、沖田がじっとこちらを見つめている。



「すみません、お待たせしました」


「じゃあ行こうか」



池田屋事件以降、沖田はより一層千鶴に目を配るようになっていた。


いや、正確にいえば監視されていると言ったほうがいいのかもしれない。


・・・またあのようなヘマをして、自分もろとも山南に怒られるのはごめんなのだろう。



あの時は結果がついて来たからよいものの。


面倒事をやたらに持ち込む千鶴は、ひと時も目が離せないようだ。





「千鶴ちゃん、誰もが本当のことを君に教えるはずもないんだから。


ひょいひょいついていかないこと。いいね?」



「はい・・・・すみません」




何度目の注意だろう。


相変わらずなところもそうだけど、

以前にもまして正義感というか、変な義務感というか・・・・。


ある意味では長所なんだろうけど。



はぁ・・・。


と、この先思いやられるといった感じで、沖田は溜め息をつく。



「あ!沖田さん!桜並木ですよ!」


「・・・ん?」




そんな沖田の心の内とは裏腹に。


千鶴の舞い上がった高い澄んだ声に閉じていた瞼を上げると、

そこには川に沿って咲き乱れる桜並木の景色が広がっていた。



「へぇ・・・こんなところあったんだ」



沖田が思わず感心の声を上げると、


その視界の下のほうで千鶴は恥ずかしそうにつぶやく。




「あ、あの・・」



「何?」



「えっと・・・その、降りても・・」




・・・・なんか、もう。


この子には何度注意しても意味ない気がしてきた。


沖田はもう一度溜め息をつくと、平隊士達に先に行くよう伝える。




「・・・いいよ。その代わり、僕の目の届くところにいてね?」



「はいっ!!」



千鶴ちゃんは邪魔者。


綱道さんだって、幕府の命で新選組と関わり始めたのであって・・・。


本来なら、男装なんて経験せずに平和な人生を歩んでいるはず。



・・・・はず、なのにね。




「君って、どうしてそう楽しそうなの?」



「え?・・・沖田さん、桜お嫌いですか?」


「いや、そういう意味じゃなくてさ。


綱道さんも見つからないまま、人斬り集団に囚われたまま、京も戦の匂いが強くなってきてる・・・・。


これのどこに楽しむ理由があるのかな。」




僕にはわからないよ。




沖田はひらひらと頭上を舞う桜の花びらをぼんやりと眺めながら千鶴に問う。





「私も・・・初めはそう思っていたんです。」



「・・・」



「とんでもなく危険な人たちに捕まってしまったって。


私の事情は聞き入れてくれても、気のゆるめられる時間はなかなか来ませんでした。


でも・・・」


「・・・・でも?」



千鶴は言葉を慎重に選んでいるのか、足もとの既に散った桜の花びらをふわりふわりと蹴って見せる。



「皆さんの中には、人を殺したいだとか、敵を斬るだとか・・・そう言った言葉に込めた思いがあることを知ったんです。」




「・・・・思い、ね」



生意気なことを言う。



沖田は一瞬そう思ったが、それがすべてであり、それ以上でもそれ以下でもないのかもしれない。


彼女はこの一年、新選組と共に時間を過ごし、経験し、体感してきた。



それが、彼女の考える自分たちの姿なのだ。




「千鶴ちゃん」


「・・・はい」


「足元に落ちてる桜の花びら、綺麗なの数枚集めてごらん」


「綺麗な、花びらですか?」


「うん」




千鶴は沖田の話題の転換に少々戸惑いつつも、言われた通り、足もとを探り始める。
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