〜小説〜
□『慰めて』
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「よし、これで後は敷布を干せば完了っと」
よく晴れた日の午後。
千鶴は隊士からかき集めた大量の洗濯物を洗い終わり、干し続けて早一刻。
後は敷布を残すだけとなっていた。
昼餉を終えてからもう随分と時間が経っているようで、太陽は傾き、
千鶴の額に浮かぶ汗がその仕事の大変さを物語っていた。
当然と言えば当然だが、千鶴は男としてこの屯所にいるとは言っても、まだまだ子供扱いをされるような少女である。
「ふぅ・・・」
その少女が大の大人の着物や道具などを、一人で抱えて歩く、なんてことをしているのだから。
「千鶴ちゃん、お疲れ様」
「わあ・・・っ、って、お、沖田さん!」
「ふふ、驚いた?」
敷布を物干し竿に掛けていると、その後ろからひょいっと顔が出てくる。
「な、なんでしょう」
「手伝おうか?」
「い、いえ・・もうこれで終わりなので大丈夫です」
「じゃあ慰めて?」
「・・・・は?」
思わずそう聞き返してしまった。
何を突然言い出すのかと思ったら・・・・
「ねぇ慰めて?」
「・・・ど、どうしたんですか」
「どうして後ずさるの」
「こ、怖いからです・・・」
敷布によって隠れていたその姿は千鶴にどんどんと迫る。
千鶴は後ずさり・・・
沖田はすり寄る。
「僕が?なんで?」
「どうしたんですか!?きゅ、急に・・っ」
「別にー?どうもしないけど?」
「じゃあ慰めなくてもいいですよね?」
「だーめ」
「ちょっと・・ち、近いですって沖田さん!」
ずりずりとすり寄られた結果、かくんと千鶴の膝は折れ縁側にぺたんと座りこんでしまう。
「僕ね、さっきまで土方さんのお説教受けてたの」
「そ、そうなんですか・・」
「だから、落ち込んでるの」
「・・・は、あ」
「だから慰めて」
「なんでそうなるんですか!?」
今にも触れてしまいそうなほどに近い沖田との顔の距離に、千鶴は否応なしに頬が熱くなるのを感じる。
「ぐ、具体、的には・・・」
必死こいて沖田の肩を押し、引き離そうとするが微動だにしない。
仕方なく、具体的にはなにをすればいいのかを尋ねてみる。
・・・・全く、全く良い予感がしないけれど。
「ん〜・・・」
「お、お手柔らかに・・・」
「そうだなぁ・・・」
「ご勘弁を・・」
「あ、じゃあ・・」
「ひぃぃ・・・」
・・・・・・。
・・・・・・・・・あれ。
「ねぇ、どうしてそこまで怖がるのさ」
「だ、だって・・」
沖田のこれまでの行い(虫だの泥団子だの)を考えてみれば、むしろおびえないほうが不思議なくらいだ。
「千鶴ちゃん、目を閉じましょう」