BOOK@
□マリージョア編A
3ページ/3ページ
「嫌じゃないのかぁ〜い?」
「別に…………」
誰かに撫でられたのは何時以来になるか。
その心地良さに苦しみも和らぎ少しは落ち着いた。
不意に額にキスをした黄猿。
「何……やってるの…………」
「こっちの方が良かったかぁ〜い?」
長くゴツゴツした黄猿の指が唇をゆっくりなぞっていく。
こんな時にこの男はと、憎たらしく思えたが心のどこかではそれ以上を期待している自分もいる。
試しに舌を出し黄猿の指を舐めてみる。ピクリと一度止まったが、舌の上に指を置きゆっくりとなぞる。
「んっ…………」
「参ったねぇ〜………」
アズリアはそのまま黄猿の指を口内に入れ舌先で絡めながらしゃぶる。
それを眺めていた黄猿は指を抜くと、顔を近付け唇を重ねた。
「ふぅ、んんっ………」
肩を押さえられ、息すらまともに出来ないくらい激しく舌を絡め取られる。
力が入らない身体に追い討ちをかけるような濃厚なキス。
頭が酸欠状態になり視界もぼんやりしてきた。
「んっ、はぁはぁ・・・・」
唇が離され、お互いの間には銀色の糸が妖しく光る。
潤んだ瞳、赤く紅潮した頬、物足りないように半分開く口、黄猿の欲望を掻き立てるには十分過ぎる程のものだった。
「船長!!ありました、これなら外せますよ!!」
予告無く開かれたドアからは喜びに満ちたマシューが現れた。
黄猿は慌てた様子も無くアズリアの手を握りしめ頭を撫でていた。
「黄猿!貴様何もしていないだろうな!!」
「まだ何もしてないよぉ〜」
「まだ!?」
急いで黄猿に離れるよう言うと持ってきた道具を取り出す。
それはどう見てもただのペンチだった。
よくよく見ると先の部分が海楼石で出来ている特注の品物だった。
「少し痛いですが我慢して下さい……………」
「早く……………」
何回かに分けて切り込みを入れ、思い切り力を込めて一気に指輪を真っ二つにした。
一瞬痛みが走ったが床に落ちた指輪を見て一安心した。
「今止血します」
「大丈夫……………それよりコングは?」
「何処まで行ったんでしょうかね?」
まだ力が入らない身体を起こしマシューに探しに行くよう指示する。
出て行くの確認すると、再びソファーに体を預けた。
「身体が重い………」
「少し横になったらいいじゃないかなぁ?」
「大丈夫………………」
隣りに座ると肩に手を回し自分の方に抱き寄せる。
抵抗する気力もなく、黄猿に身体を預け優しく肩を撫でられる。
肉体的にも精神的にも疲れたきったアズリアはその撫でられる感触が心地良くなり、瞼が重たくなってきていた。
「2人が来たら起こして……………」
「ゆっくり眠るといいよぉ〜」
敵でありながら、何故かは分からないが安心感があった。
身体を預けそのまま眠りにつく。
規則正しい寝息が聞こえてきたのを確認すると静かに彼女の体から離れる。
「ちょっとだけごめんよぉ〜…………」
彼女をソファーに寝かせ黄猿は自分の膝にアズリアの頭を乗せた。
羽織っていたコートを上にかけてやり、寒くないように気を配る。
「可愛い寝顔だねぇ〜?」
「ボルサリーノ、アズリアは?」
「今ぁ眠ったところなんで静かにしてもらえねぇ〜ですかい?」
疲れきった顔で心配そうにアズリアを見つめるコング。
マシューは何故か鋭い視線で黄猿を睨みつけていた。
「どうする?このままにして置くわけにはいかないぞ?」
「わっしが船まで担ぐのでご心配なくぅ〜」
「本来は許されませんが、事がことです。乗船を許可します」
「ならマシュー、そのままボルサリーノと海軍本部に行ってくれないか?」
招き入れるだけでも有り得ない事態なのに、一緒に航海しろとは前代未聞だった。
船長がこんな状態なのだ、決定権は副船長のマシューにある。
「断れない事くらい分かります。これはあくまで仕事として引き受けましょう」
「仕事なら他にあるんだが、まぁいいだろう。そのまま海軍本部の手伝いをしてくれ、どうやら白ひげと一戦交えるみたいだからな」
「その辺はセンゴクさんにでも聞いておきます。黄猿、くれぐれも船長に手を出すなよ!」
「そんな野暮な事はしねぇよ〜」
ぐっすり眠っているアズリアを優しく抱きかかえ部屋を出た。
こんな華奢な身体の持ち主が、何故政府の監視下に置かれているのか?
そして、何故悪魔の実を2つ以上も保有しているのか?
興味は尽きないが、ひとまずは彼女を一刻も早くこの場所から連れ出したいと思い、彼女の海賊船へと急いだ。