仁亀

□trip
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「おーい起きろー!帰るぞ!」

懐かしい声と匂いに包まれながら目が覚めた。

そこはいつもの自分の部屋ではない

落書きだらけの教室の中でぎゃあぎゃあと騒ぐ生徒たち。

「おーい、起きろって帰ろーぜ?」

「あっ…えっと…え?」

「なっ、なんだよその反応…」

まっすぐと自分を見つめていた瞳がわかりやすくふらりと揺れた。

ぴょんぴょん横にハネている髪が顔を動かすたびに上下に震える

「ちょっ…ちょっとごめんすぐ戻る!」

「あっ!おい!」

「なに?どったの竜」

「さぁ…でもなんかいつもと違ったよーな…」


パタパタとトイレに走りこんで自分の顔を見てみれば、黒く短かった髪が茶色のストレートに変わっていた。

まだ若かくてギラギラしていた頃の自分

「なぁ、竜?どうしたんだよ、なんか変だぞ?」

仁が心配してついてきたのだろうかドアからひょっこりと顔を出して鏡越しに顔が見えた。

いや、隼人と言ったほうがいいのだろうか

同じくこの頃は仁もやんちゃものだった。
今に始まったことではないが

「いや平気、わり心配かけた」

「おっ!おう!なんかいつもと違ったから焦ったぜ」

ヘラヘラと笑って近寄ってくる隼人が
懐かしくてついつい頬がゆるむ。

「り、竜?」

「…んー、なに?」

顔を見るなりスッと伸びた腕が隼人の頭をワシャワシャとなでた。

くせっけが指に絡んでフワフワしている

うん、悪くない

「やっぱお前…今日変じゃね?」

「なにが?俺はいつもとかわんねーよ」

ビクビクと恐ろしい物を見たかのような顔をされれば苛めたくなる。

目だけは笑わずに口元だけ笑ってみせるとサァーっと顔が真っ青になっていく。

面白い奴

確かにいつもと違う!変だ!と言われて面と向かってそうではないと否定することはできない。

だが俺からしてみれば小田切竜は誰でもない俺なのだ

他に変わりなんているはずもない

だが昔の仁を見ているとなんとも言えない感情がこみ上げてくるのだから仕方がないではないか

「はーやと」

「なっ…なんだよ気色わりぃな」

クールな小田切ならこんなことはしないだろう。
だが残念ながら今の俺は亀梨和也だ。
残念ながら気色わりぃこともできてしまうのだ。

「なぁ、聞いて」

「わかったから…」

ずっと撫でていた頭からようやく手を離すと猫のように警戒しながらトイレの個室に隠れた。

「俺さ、久しぶりにお前に会ったんだよ」

「はぁ?いつも会ってんじゃんかよ」

「俺はあってないの」

「…わけわかんね?てかそのしゃべり方なに、らしくない」

顔を出したり引っ込めたりする動作が小動物みたいだった。

仁からなら考えれもしなかっただろう。

「とりあえずさ、やっぱ俺はお前の事好きみたい」

「…お?……っばー!!なっ!おまっ!はぁ!?」

なぜこんなにも愛らしい態度を取るのか
ずっと不思議だった。

そうだ

あの頃はお互いが子供だったから

だから正しい恋の仕方も

愛の重さも意味も知らなかったから

だからこんなにも隼人は初々しいんだ

俺が大人になったんだ


ようやく自分が今の仁に何がしたいかがわかった

「なぁ!隼人!ちょっと来てみ!」

「?なんだよ、すげーもん?」

なんの疑いもなくひょこひょこ出てきた隼人の腕をぐいっと引っ張りおでこにキスをして抱きしめた。

「まーっ!!!またっ!!竜!!お前変だ!!今日の竜は竜じゃない!!」

腕の中でバタバタと暴れる隼人の背中をポンポンと叩いた。

『今』の仁が俺にしてたみたいに

優しく愛してくれたように


「んっ…あれ」

いつもの自分の部屋だ。
いつもと違うのはソファーで寝ていたということぐらいだろうか?

「あ、起きた?早く行こーぜ、かめが買い物行くって言ったんだろ?」

ソファーから少し離れたところで仁がテレビを見ていた。

あーなるほど、そういうこと

テレビには若い頃の俺達が写っている。

「ねぇ仁今夢見てた」

「へぇ?どんな?」

テレビを消した仁がソファーの背もたれから顔を出すようにして俺の顔を覗きこんだ。

「昔の仁に会ってきた」

『さっき』仁にしたように手を伸ばして仁の頭をなでた。

やっぱりフワフワしていて撫でるたびにシャンプーの香りが漂う。

「どうだった?」

「ん?内緒だよ」

意味ありげに笑えば仁はクスリと笑い、俺の手をとってキュッと絡めた。

「ねぇ、また今度買い物に付き合って?今日は家にいたいな」

「それってこういうこと?」

ソファーを乗り越えて俺の上に座った仁はそのまま深く甘いキスをした。

うん、そういうこと

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