沖田総悟

□月灯り
1ページ/3ページ

.







「土方さん、そろそろ離して下せえ」





俺は土方さんに強制的に連れてこられて
町の見回りに来ていた

真昼だからか 子連れやらカップルやらで
人が混み合っていた



ああー、面倒くせえ・・・・・・



今すぐにでも屯所に帰って
縁側で昼寝でもしたい所だが、
土方さんが俺の服の襟を引っ張って離してくれねえ

全く動こうとしない俺に懲りたのか
土方さんは俺の襟から手を離すと
たばこを口から離すと ふう、と煙を吹いて
俺を睨んだ




「総悟・・・てめえ、今日という今日はサボらず真面目に仕事しやがれ!」


「へいへい」




瞳孔を開き顔を真っ赤にして怒る土方さんの顔はまさに鬼だった
さすが鬼の副長と呼ばれているだけある
顔が鬼のように怖い

そんな土方さんを適当に流すが
それはいつものことだった




「土方さん、腹が減りやした。ちょうど昼時だし そこのうどん屋にでも・・・・・・」




目線をうどん屋から土方さんへ戻すと
土方さんの後ろの方にある店に
笠を被っている奴が2人。
見るからに女と男だった。

何か胸騒ぎを感じて男の方を見ると、
何処かで見たことのある風貌・・・、
と、ようやく理解した。



・・・鬼兵隊の頭、高杉晋助・・・



土方さんも察したのか 向こうを睨みつける
唾をゴクリと飲み込んだ
思い返せば朝方屯所で 鬼兵隊の船が江戸付近で目撃されたと騒いでいた ーーー・・・



・・・バレないようそちらに近づきながら
ふと女の方を見た時だった
一瞬で思考が停止していくのが分かった


・・・あいつは・・・・・・





「・・・・・・っ名無しさん・・・」


「・・・・・・まさか、そんな・・・」





土方さんも気付いたようだ
間違いない。高杉に笑いかける横顔は、
昔と全く変わっていない 名無しさんだった

まさか、生きていたのか?

春雨があの村に襲撃してきたとき
村の住民は皆死んだと聞いた
もちろん名無しさんもだ
名無しさんの両親の墓の横に
名無しさんの墓もあった
昔ながらの仲だった俺と土方さんと近藤さんは墓参りにも行った
名無しさんという人物は、もうこの世には居ない事になっていた


のに、名無しさんは今俺の目の前にいる


喜びと驚きと疑問が混ざり合って
よく分からない感情になった





.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ