桜蛍

□池田屋事件
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 屯所を出てから、僕たちは二手に別れかけていた。

 土方さんと分かれて少し寂しく思ったけど…、
 土方さんとさっき交換した額当てがあるのを思い出し、僕は小さく微笑んだ。


 暫くの間、街中を駆け、池田屋の近くの路地裏に僕たちは身を潜めた。

 僕たちは、息を潜めながら池田屋を見つめていると不逞浪士が池田屋に入る後姿を見つけ、

 「どうやらこちらが本命みたいですね。近藤さん」

 僕はすぐ近くにいる近藤さんを見ながら話しかけると、
 近藤さんは小さく頷いた。

 「どうしますか?」

 「暫く様子を見る」

 僕は再び池田屋のほうへ視線を向け聞くと、
 近藤さんは小さく言い、

 それから暫く、

 「これより突入するっ!!
  刃向かうものは容赦するな!!」

 隊士たちを振り返り小さく近藤さんは言った。
 池田屋の二階のある一角の部屋に灯りが灯っていて、何人かの人数がいるのが少しでもわかった。
 それをきっかけにし、近藤さんは路地裏から躍り出た。僕もその後に続いて駆け出した。

 「我ら、会津中将お預かり浪士組、新選組。
  ―――詮議のため、宿内を改める!」

 近藤さんは宿内に入り高らかに言った。
 その声に、すぐ近くに居た、宿主が

 「し、新選組だっ!!!」

 二階のほうに声を上げた。
 僕は一度そちらに視線を向け近藤さんのほうに振り返り、

 「わざわざ宣言しちゃうなんて、近藤さんらしいですよね」

 笑いながら声をかけてから、刀を抜き階段まで駆け出した。
 それまでに出てきた、不逞浪士たちに刃を向けた。
 足元には何人かの死骸が転がっていたけど、
それには見向きもせずに跨いで先に行っていた平助君に「お先に」と言い、
追い越すと、後ろから「あっ、総司!ズリぃぞ!!」の声と叫び声が聞こえ、平助君が追ってきた。

 僕は、ある一角の部屋の前の障子を少し開けて中を見ると、
 窓際に男が二人、並んでいるのが見えた。
 その二人は窓から逃げようとしていた。僕は、勢い良く障子を開け、

 「ねぇ?何処行くの?」

 中に入り、二人の男を睨み上げた。

 「まさか、逃げる気?」
 「そんなことさせないよ?」

 男たちが動かないのを見て、僕は微笑んで聞いた。

 「逃げるわけではありません。
  私たちは、仕事を終えたので戻るだけです。貴方方が来られたので、私たちにはもう関係ないことです。」

 二人の男の一人が真っ直ぐ僕たちを見据え、

 「それに、我々には新選組の方とやりあうつもりはありません」

 最後に一言だけ付け加え、背を向けようとしたところを、

 「そう言う訳には行かないんだよ!
  俺たちにはお前らと戦う理由があるんだから!!」

 平助がその男に向かって駆け出しながら言うのに、

 「そうそう。君たちがここに居ることから簡単に逃がすわけにはいかないんだから…!!」

 僕は付け加えて、もう片方の金髪のほうを睨んだ。
 金髪のほうは「どうでもいい」と言う顔でこちらを見てたけど、

 「平助君、気をつけたほうが良いよ。
  こいつら強いと思うから…」

 平助のほうに一度視線を向けると、
 「わかってる!って」と平助が真っ直ぐ見据えた。
 僕もまた剣を構えたまま金髪のほうを見た。
 僕の言葉に金髪は笑みを浮かべた。
 それに気に食わなさで顔をしかめたけど、金髪はそれほど気にしたわけでもないらしい。
 それどころか、「ククッ」と笑う声も聞こえ、不覚にも背筋に汗が流れた。

 『こんなの…初めてだ……
  今まではこんなの感じたことない!』

 その感覚に顔を歪めると、

 「掛かっては来ないのか?口先だけなのか?」

 金髪は面白そうに聞いてきた。それに僕は切りかかった。

 「ふん、誰が口先だけだって?
  勝手なこと言わないでくれるかな?」

 「少しは頼ませてくれるようだな」

 僕の声に金髪は切りかかってきた。
 それをあしらいながらも一歩ずつ足を踏み込んでいたけど…

 「ぐぁっ!!」

 後方のほうでやっていた平助の叫び声に僕は一瞬目を向けた。
 その隙を見てた金髪が続けざまに押してきた。
 僕は、何とか受け止めながらも立て直そうとしたけど、それを許さないが如くの連発とした攻撃になかなか立て直せれないで居ると…

 「沖田さん!!」

 何かが金髪のほうに向かってきて、それを交わすのに一瞬隙ができた。
 その隙を見逃さずに切り込むと、金髪は一歩後ろ下がり戸口のほうを見た。
 僕はそれを気にしながらもまた踏み出すと、金髪は鳩尾に一発蹴りを入れた。
 そのまま蒸せ返り崩れた僕に、

 「沖田さん!大丈夫ですか!!?」

 彼女は、駆けよってきた。
 そんな彼女に、

 「貴様も…「ねぇ?あんたの敵は僕だよね?この子じゃないよね?」

 声を掛けようとしていた金髪の言葉をさえぎり声を上げると、

 「ふっ。卿が冷めた。」

 一言だけ残して窓の方に向かう後姿に、

 「まっ…ゲホッ、ゲホッ………」

 声を上げようとしたけど途中で咳き込んでしまい、そんな僕に、

 「大丈夫ですか!?沖田さん!!!」

 彼女は泣きそうな顔で覗き込んできた。
 そのころには、もうあいつは居なくて、そして平助と遣り合っていたやつも居なくなって、僕はそれを確認する前に気を失った。

 気がつくと僕は布団の上で転んでいた。
 どうやら、池田屋から屯所まで運ばれたらしい。
それが分かるほどに体の節々が少し痛かった…。この痛みからすると戸板で運ばれたらしい…。
少し痛む体をかばいながら上半身を起こすと外から、

 「沖田さん。」

 控えめな彼女の声が聞こえた。
僕は無言で障子の向こうに居る彼女を見ていると、

 「失礼します。」

遠慮がちに言いながら彼女が中に入ってきた。
 僕が体を起こしているのを見ると、

 「体、大丈夫なんですか…?」

心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
そんな彼女に「大丈夫だよ」と微笑むと「そうですか…」と小さく息を吐いて彼女…千鶴ちゃんは微笑んだ。
 そんな彼女を頭を撫でてあげると彼女は少し頬を染めながら下を向き、

 「あの、何か食べ物持ってきます」

と呟いて立ち上がった。
出て行く彼女に「うん」と頷いて見送り、一息をついてから…

 「何時までそこに居るの?」

部屋の隅に居る彼―山崎丞に視線を向けた。

 「副長から貴方のことを見張っておくように命じられましたから…」

 彼は真っ直ぐ僕を見つめたまま言った。

 「へぇ、じゃ、もう戻ってもいいんじゃないの?」
 「だって、僕が目を覚ますまでってことでしょう?土方さんの命令って…」

そんな彼に興味なしに返すと、

 「ですが…」

彼は非難の声で反抗してきた。僕はさらに目を細め彼を見ると、彼は目線を彷徨わせた。
そんな彼の気に食わない態度に僕は、

 「じゃ、僕が土方さんのところに行けばいいんでしょう」

 彼を振り返りながら言えば「えっ」と彼は驚いたように顔を上げた。
 僕はそれを横目で見ながら部屋を出ると、

 「ま、待てください!!沖田さん!!!」

後ろから駆け寄ってくる音と制止の声を振り切り、副長室へと向かった。
 
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