桜蛍

□池田屋事件
1ページ/3ページ


 女主人が、

 「あれは………」

 と話しだしたのき聞いてた僕は驚きで目を見開いた。

 それは………

 ーーーーーーーーーーーーー

 近々、島原で長州ら不逞浪士が会合してると聞いた、僕達は土方さんの命により池田屋と四国屋の二手に別れることになり、
 近々の猛暑で隊士達が半分近く減っていることに、本命を四国屋に決め、
 土方さんは本命の四国屋へ、
 近藤さんは池田屋へ、
 隊を半分にと言っても20数名と10数名にして、それぞれ土方さんと近藤さんに別れてつくことになった………

 僕は、当然近藤さんの方についた、
 本心では、土方さんの方につきたかったけど………、その人からの命令なら仕方がなかったんだけど………

 そんなことを考えながら準備してると、

 「総司、今ちょっといいか?」

 戸の向こうから愛しい人の声が聞こえ、

 「ええ、いいですよ。
  土方さん、どうしたんですか?」

 戸に向かい開けると、土方さんは僕に鉢金が入ってる額当てを渡してきた。
 僕は、突然のことに驚いて見つめていると……

 「俺のはお前が持っとけ、
  変わりにお前のを俺にくれ」

 いきなりの言葉に目を見開き見つめ、

 「貸すのはいいですけど……
  あげるのは無理です…」

 そう言うと土方さんは一瞬呆けた顔をして、そしてブハッと肩を揺らしながら笑った。
 普段、鬼副長で訝しい顔でいる彼が笑ってる姿は珍しい光景だった………、
 僕は暫くの間、土方さんが笑ってる姿を見つめていると、
 僕の視線に気づいた、土方さんが笑うのをやめて、

 「じゃ、お前の貸してくれ」

 手を出してきた。

 「貸すのはいいですけど……
  壊さないでくださいよ?」

 僕は差し出された土方さんの手を見つめながら言うと、

 「あぁ、壊さねえよ……」

 土方さんは、目元を和らげて言った。
 僕は、部屋の奥の簞笥に向かって、一番上の引き出しの中から額当てを出して土方さんに渡した。
 土方さんは、額当てを見て一瞬驚いてこっちを見つめてまた、額当てに視線を落とし………

 「あまり使われてねぇみたいだけど……」

 「えぇ、鉢金重いですし、
  戦闘の時に邪魔なので付けないようにしてるんです、
  だから、ほぼ未使用と言えますよ?」

 土方さんの言葉に僕は淡々と答え、微笑んでみせた。
 土方さんはそんな僕を見てから受け取った。
 そして、自分のを僕に渡した。

 「戦闘の時に付けっとけ……」

 「え?でも………」

 「俺のは、別に汚れても構わねえから…」

 「土方さん………」

 「………副長命令だ…」

 まだ僕が異論をしようとすると、土方さんは決まってその一言を言う。
 僕がそれを聞くと逆らえないのを知っているから……。

 (まったく………)

 「……わかりました。
  土方さんの言うとおりにしますよ……」

 僕が小さく息を吐きながら言うと、
 土方さんは満足気に微笑み頷いた。

 そんな土方さんを見つめながら、
 僕は手元にある額当てを両手で包んだ。

 そして……、
 広間に集まった隊士たちを見渡してから、

 「これから出陣する。
  お前ら、十分に暴れて来い!!」

 「おう!!」

 土方さんの掛け声に答えるようにあちらこちらから声が上がった。
 僕がそれを見ながらいると、土方さんは僕のほうに視線を向けた。
 土方さんはただ見つめてくるだけだったけど…
 僕が微笑むと、彼も一瞬微笑み、

 「気は絶対に抜くなよ!!」

 盛り上がる隊士たちに振り返り声を上げた。

 そんな彼の隣で近藤さんは、

 「雪村君、君には留守を頼む。」

 「はい」

 土方さんを見つめていた彼女に声をかけていた。
 彼女は数日前屯所から抜け出した羅刹を見てしまい、
 そしてその羅刹を生み出すよう幕府から密命を受けていた蘭方医の雪村綱道の娘であることから、
 暫くの間、この屯所で面倒を見てあげることになった。

 (千鶴ちゃん、土方さんのこと好きなんだろうな…)

 僕は彼女が来てから暫く経ったころから胸の中にずっと渦巻く感情があった。
 普段は表に出さないけど…、彼女が土方さんと一緒にいるところを見ると胸が時折痛むのを感じていた。
 そんなことを考えてると、

 「沖田さん。」

 僕の視線に気づいた彼女が駆け寄ってきた。

 「どうしたの?千鶴ちゃん」

 少し首をかしげながら聞くと、

 「どうか無事に戻ってきてください」

 彼女は真剣な目で僕を見つめながら言った。

 「何?僕が死んじゃうと思ってるの?」

 そんな彼女に少しきつめに言うと、

 「そんなこと思ってません!!」

 彼女は声を上げて強く僕の目を見据えた。
 そんな彼女を見ながら、

 「ごめんね?少しからかっただけだよ」

 頭を撫でてあげると彼女は不安げに僕の顔を見上げた。
 僕はそれにただ微笑んでると

 「何してやがる。総司」

 土方さんが低い声で僕を睨みながら…
 僕の隣にいる彼女を見ながら話しかけてきた。
 
 「はいはい。わかってますよ、土方さん。
  ごめんね、そろそろ動かないといけないんだ」

 僕は、土方さんの視線をさえぎるように千鶴ちゃんの前に立ち微笑んで言うと、

 「すみません!!
  頑張ってきてください!!沖田さん、土方さん」

 彼女は頭を下げながら僕と土方さんに声をかけてからクルッと背を向け行った。
 僕は、彼女が行ってから

 「何してるんですか?土方さん」

 振り向いて、土方さんに話しかけると、
 彼は無言で踵を返し広間を出た。
 僕は、そんな彼の後を追い外に出た。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ