桜蛍

□池田屋事件 No.2
1ページ/1ページ


 総司と平助を戸板に乗せて奉行所まで戻った俺たちは、広い部屋に負傷者たちを運び奥の一室に総司を運んだ。

 総司は一度、運んでるときに唸ってから未だ眠ったままだった…、
そんな総司を布団の上に寝かせてから数分たったころ、総司は熱を出した。それも高熱の…。

 「氷はねぇのか!!」

俺は動いてる隊士たちに怒鳴りつければ、「ここにはないみたいです。」と斎藤が近くまで駆け寄って声を掛けてきた。
俺はそれに舌打ちすると、身を翻し、「氷が手に入るところしらねぇか!!」と声を荒げると一隊士が近寄ってき、

 「この先に氷を使う店があるそうですよ」

肩を小さく震わせながらも言ってきた。

 俺はそれを聞き終えてから駆け出した。
その後ろから「でも…」と聞こえた気がしたが、それを気にせずに駆けた。


 先ほどの隊士から聞いた場所に辿り着き、
戸を叩きながら「誰かいねぇのか!!」と怒鳴ると数分してから戸が開き中から一人の女の人が出てき、

 「こんな夜遅くに尋ねてこられた方が何の御用でしょうか」

凛とした声で聞いてきた。

 「ここで氷使ってるて言うのは本当か!!」

俺は乱暴に聞くと、「えぇ」と女は答えた。

 「その氷を売ってくれ!!」

その言葉に縋り付くように頼むと、「申し訳ありませんが、お引取りください」と真っ直ぐに見つめたまま女は言った。
 俺はその言葉に絶句してしまった…。

 そんな俺を女は終わったとばっかりに中に消えようとしたので、

 「ちょっ、ちょっと待てくれ!!」

あわてて呼び止めると、その女は「まだ何か?」と振り返った。
 それに、「頼む!!」と俺は頭を下げた。

 「確かに俺がした行為は非道だった。
  本当に申し訳なかった…、
  だけど、お願いだ!!俺に氷をくれ!!」

 必死の頼みにその女は「何に使うのですか」真っ直ぐに俺を見据えて聞いてきた。

 「俺の大事なやつが高熱を出しちまって…!!ちょうど
、休んでるところには氷が置いてないから、他の者に聞いたら此処に氷を使ってるて聞いたんだ…」

 俺はそれに今までの経緯を話すと、

 「それは…。あなたはその大事な方のために…」

その女は目を見開き、慌てて中に戻った。

 それから数分して出てきた女の手には氷が入っている桶を俺に渡し
「どうぞ、その方のために使ってください」と言った。

 「ありがとう…、
  けど、良いのか?こんな急に来たやつにあんな言い方だったのに…
  そんな易々と渡して良いのか?」

 俺は礼を言いながらも聞くと、

 「あなたは、新撰組の方と見えるので…」

女は俺の服装をジッと見つめていった。
 それに俺は納得いき、再度 女を見ると、

 「ですが、一つお願いがあります。」

 「お願い?」

 「そうです」

 「何だ?」

 俺は訝しげに眉を潜め、女を見た。

 「はい。
  あなたが大事な人を今度店に連れてきてください。」

 女は、真っ直ぐ俺を見たまま言った。

 「…、あぁ、分かった。
  だが、こっちとら忙しい身だから何時連れてこれるか分からねぇぞ。
  お互い忙しい身だからな。

  それでもかまわねぇて言うなら、
  今度、連れてくる…」

 俺がそう言うと、女は一つ頷いて「またのお越しをお待ちしておりまする」とお辞儀をした。
 それに頷いてから氷を持って、急いで町奉行に戻った。
 
ーーーーーーーーーー

 若女将の言葉を聞いて、僕は隣に居る土方さんを見た。
 土方さんは顔を顰めそっぽを向いていたが、特に怒っている様子はなかった。

 「まさか、あの時、おっしゃってた大事な方が女性ではなく男性だったなんて思いもしませんでしたが…」

 と、若女将はクスクスと微笑みながら土方さんに言うと、彼は、

 「生憎、その辺の美人よりこいつのほうが魅力的だったからな」

 さらりととんでもない事を言ってのけた。
僕は、顔を赤くして俯き、小さく土方さんの肩を小突いた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ