蛍
□憎らしいやつ
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僕は、今 腑に落ちないことがある。
それは、アイツ…。
南雲家当主であるこの僕を邪魔するやつ…
僕には、可愛い双子の妹がいる。
妹は、今 アイツが居る場所で暮らしている。
鬼が、人間と共に過ごすなど…
と、最初の頃は思っていたが…
「」!?
そんなことを思ってたら、人にぶつかってしまい…
「あれ?」
それも、嫌なやつに…
なんとなくその場を切り抜けようとした僕に、「ぶつかっといて何もないの? 鬼さんは?」と声を掛けられ、僕は苛立ちのあまりに舌打ちしそうになったところに、
「組長。どうかしましたか?」
一人の男…隊士だろうやつがアイツに話しかけてきた。僕は知らないとばっかりに顔を背けてると、その隊士は訝しげに僕を見てる。
そんな隊士にアイツは、「なんでもないから。しばらくの間、彼と二人きりにさせてくれないかな?僕の、知り合いなんだ」僕のほうを見ながら、なぜか最後の言葉だけ強調して言った。
そんなアイツの言葉に隊士は「…わかりました」と腑に落ちない感じで頷き、踵を返して戻っていた。アイツはそれには目もくれずに、
「ね?薫くん」
と、僕のほうを真っ直ぐ見つめながら、
「何を考えていたの?」
ほぼ確信のように微笑みながら聞いてきた。
それは、逃がさないよとでも言いたげに。
僕は、今度こそ舌打ち…じゃなく、ため息をつき、「何でも」と返した。
「ふ〜ん。」
そんな僕の返しにアイツは納得してない感じで頷き、
「じゃ、後で 屯所の裏に来て?」
と、嫌いな笑顔で嫌なお願いをしてくるアイツに俺は睨んだ。
そんな僕の睨みを肯定を勝手に取り、アイツは僕に背を向けて「戻るよ」と一言を言うだけで後は振り向きもせずに歩き去っていた。そんなアイツの後を隊士たちがついて行くのを。
町の住民がさげすむ様な瞳で見つめるのを。
僕は、ただ黙ってみていた。
アイツが居なくなってから、数分後 僕の目の前には……。
本当に憎たらしい…。
僕は、そっと 心のうちで舌打ちをする。そんな僕に彼は「薫くん」と優しく微笑みかける。
ああ。本当に憎たらしい。
心の中でもう一度舌打ちをして、アイツ…この済ました顔の新撰組 1番組組長 沖田総司を睨みあげた。