小説

□千年の中で
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森の中の獣道を辿り、実に1時間程歩くと視界が開ける場所がある。

そこは空をそのまま映し出したような湖が広がり、周りには緑と動物が共存している。

清らかな水の中には様々な魚が泳いでいるが、人間は滅多に踏み込まない。

昔、此処には1人の妖怪がいると信じられていたからだ。


今、その妖怪と話している者が1人。

「お前さんも暇だねェ…わざわざ俺の所へ出向くなんざ、物好きもいたものだ」

「悪かったな物好きで、此処はこの森のなかで一番日当たりも景色もいいからな…決してお前目的じゃねーぞ?」

「ククッ…そうかい、俺ァアイツじゃねぇだけありがたいけどなぁ」

アイツ、とはどこぞの九尾の狐の事だろう。

しょっちゅうコイツの所に来ては「抱かせろ」だとか「ちゅーくらいは!?ねぇ!?」とかアタックしている。

「お前、九尾の事どう思ってる?」

何となく聞いてみた。

て言うか、九尾のきを聞いただけで顔を顰めた。

「アイツはもう会いたくねぇ、毎回来ては俺に触らせろとせがんでくる……うっとおしくてやってられねぇよ…」

結構迷惑しているのだな、と思った。

何故なら?

とっても顔に出てるからです。

(顔に書いてあるってこの事だな…)

思いっきり目を細め、徐に煙管を取り出す。

いつの間にか付いている火。

こいつの妖力??

俺がうんうん悩んでいるのを知らない顔して紫煙を吐く。

(色っぽい奴…)

宝石の様な色鮮やかな鱗。

深緑の瞳と紅い唇。

そして艶のある柔らかそうな髪の毛。

目は片方しか見えないが、それがまた儚げな雰囲気を醸し出していて…。

ゆっくりと、こちらに向けられる瞳。

「どうかしたか?烏サン」

アイツが欲しがるのも分かると思った。

「いいや?綺麗だと思ってよ」

「そうかい、湖は自然の恵さ。ここの水は飲めるぜ?」

「湖も綺麗だが、お前も」

ゆっくりと頬へ手を伸ばす。

手を触れそうになった時、ちゃぷんと水の中に入ってしまった。

「そんなノロイ動きしてるとアイツに絞められるぜ?」

クククと喉を鳴らし、馬鹿にしたように笑う。

「あ、あとこれ。持ってろ」

そう言って投げられたのは白い真珠の様な玉。

「なんだよ、これ?」

「じゃあな、誕生日おめでとう、烏サン」

そう言った後、美しく微笑んで水の中に消えていった。

いやいやいや、意味分からねぇよ!!

「おい待て!!!何なんだよコレ!!!」

そう叫ぶとコポコポと泡が上がってきた。

しばらくして高杉が出てきた。

「分からねーのかよ、誕生日プレゼントだよ」

「いや、それは分かるけど…コレの名前を知りたいんだよ……」

「それは…真珠さ。お前とおない年の、千年かけて作られたんだぜ?」

そう言って、また沈む。

全くあいつは……気まぐれすぎて付いていけねぇ……。

でも確かに言えるのは魅力のある妖怪だということと、

(一番嬉しいプレゼントだ…)

千年目の誕生日、この湖に来れた事を幸せに思った。



おしまい

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