一般人魚のキッス
□理由
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「お主に名はあるのか」
「高木大吉と申します」
「ダイキチとな、良い名じゃ。初めて聞いたが、どうゆう意味かの?」
「へ…」
おいっ、とツッコミ入れるべきだろうか。
おみくじで一番いいやつです。とか言っても、おみくじとは何じゃ、とか言われそうだし…
ここはスルーした方が良さそうかな。
「ダイキチとは、どうゆう意味じゃ」
うわっ、突っ込んできた。
「えーまー、なんと言いますか、くじ引きの大当たり…?みたいな感じですかね」
「ほぅ、大当たりか、それなら分かる。良き名じゃ」
な、なんか理解してもらえたのかな。
取り敢えず、笑顔で接しておこう。
「あ、ありがとうございます」
ヘラヘラしてる俺は、今いったい何をしてるんだろう。
聞きたい事は山程あるだろ。謎だらけだろ。
でも、この威圧感ハンパない。聞けないよ。
取り敢えず、女性だと信じ込んでたけれど、今は正直どっちかわからない。
堂々とした態度、なによりも、野太い声。女性に、ここまでの野太い声が出せるのだろうか。いや、出せるのかもしれない。いや、どうかな。
ちょっと、どっちでも良くなってきた感じもする。
しかし、透き通るような白い肌。腰まで届く、真っ直ぐな黒髪。か弱い肩。
後ろから見る限り、この人物は女性に見える。
自分に背を向けて足を組んで座る人物の後ろで正座して思いを巡らす大吉。
顔は、まだ見ていない。
大吉が目覚めた時には、もうこの体勢で座っていた。
髭ボーボーのオッサンかもしれない。
それならそれでいいけれど、昨日のドキドキを返してくれ、と言いたくなる。俺が勝手に全裸の女性と思い込んでただけだけれど。
思いきって。
「あの…失礼かと存じますが。あなた様は…女性ですか?それとも男性?いや、その、怒らないで下さいね、ちょっと、あの、気になりましてね」
あははは…
と、とってつけたような笑いをつけたす。
「我は人魚なり」
沈黙。
ザバーン、ザバーン…
波の音が聞こえる。
「えーっと…」
どこかに頭をぶつけて記憶がない、とか。漂流中に精神を病んだとか。かな…
「んーとっ…人魚さん?なんですか?」
「いかにも」
性別の問いに人魚と答えるこの人物に、どう話しを進めるべきか。
聞き方が悪かったのかな。
「えーっとですね。では、その人魚さんの中で、女性か男性か、とゆうとどちらですか?」
「人魚である」
あぁ、もういっかなあ。
すると、人魚は続けた。
「陸の人間の種別から言わせると、今の人魚は女だけになるのだろう。大昔は男の人魚もいたと聞くが、今は誰も見たことはない」
「俺も聞いたことがある。海の温度が上昇してからは女性しか産まれなくなったとか」
「それは、陸の人間の仕業と聞いておる。お主の仕業かっ」
「はい、てゆうか、俺も含めてと言うか…どうも、すみません」
俺だけが謝って、どうにかなるもんでもないけれど、人類代表として謝りたい。
でも、俺だって海が大好きだ、綺麗な海をいつまでも守りたい、と思ってる。
そうなんだけど、今はこの状況を何とかするべき、かな。
「えーっと、そうなるとですね、あなた様は女性の方と…」
「どこからどう見ても、女であろう」
「あ…はい…そうです、よね」
あははは…
見た目はね。
でも、声がね。男よりも男らしい、っすよね。
「ダイキチは男か?」
「へい」
あ、なんか変な返事しちまった。
「陸の男は、皆そのような、か弱き声をしておるのか?」
え、俺の声、か弱い?
確かに、あなた様より高い声ですけど。
「標準な高さかと…思います」
「そうなのかっ?」
と驚く人魚は大吉を見た。
その顔に髭はなかった。良かった、ホッとした。
まだ幼さの残る人魚の顔。
言葉使いからして、どんなババアなのやら、と想像していた大吉は、目を見開き口をポカンと開けたまま固まった。
そんな大吉に構わず
「我らは普段、声など出さずに会話ができる為、声の出し方が良く分からぬのじゃ」
どんどん迫る人魚。
「ダイキチよ、我の声は変であるか?」
もっと迫る人魚。
「のお、ダイキチ。答えてみよ」
大吉の腕をつかみ顔を覗き込む人魚は、まだ全裸だった。
すっかり明るくなったなかで見てしまった全裸のお陰で、大吉の鼻から、血がタラリと流れ出た。
「ダイキチよ。血じゃ。お主死ぬのかっ。しっかりせよ、死ぬぞ」
と慌てる人魚だが、声は相変わらず男らしい。