短編集
□夏の約束
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「千歳」
「なに?」
「次」
「もう少しで終わるから待って」
自習の時間。
課題のプリントを終わらせた私は少女漫画の世界に没頭中。
後ろの席からの鋭い視線を感じつつ、やっと想いが通じあったはずの主人公の女の子とヒーローの男の子の危機を読み進めていく。
「はい」
「おう」
後ろに本を回せば私の読む物は無くなり
、思い切り伸びをして机に突っ伏した。
早く新刊出ないかなぁ。っても、今日出たばっかりなんだけど。
コミック派の私としては続きが気になる。
外に目をやると高い青い空に真っ白な雲が良く映える。
吹き込む風は暑さをはらみ、いつの間にか春を知らせる鳥達は姿を消した。
「夏が来るなぁ…」
思い出す、毎年夏を前に流した涙。
今回こそは…。
この青空にそう願わずにはいられない。
「純」
「あ?」
「夏の甲子園はここより暑いのかな」
「さあな。行って確かめればいいだろ」
「そうだね」
「……俺が」
「え?」
「俺が連れてってやる」
顔を隠すように寄せられた漫画の両脇から見える耳は真っ赤で、思わず笑ってしまったのは不可抗力だと思う。
夏の約束