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□ 続宝来和人
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裕介がベランダから出ると階段の前にしゃがみ込む和人の後ろ姿が見えた。
「なになにー?何してんの和にい」
しいっと口元に人差し指を当てて振り向いた和人だったが、体制を変えずにまたリビングの方に向き直す。
何をそんなに必死に見てるのかと後ろから覗き込むと、リビングに1人ソファに座る名無しさんの姿が見えた。
映画でも見ているのか、いつになくテレビに見入る名無しさんの様子が可笑しい。耳をすますと聞きなれた声がする。
「、、これって、」
数日前に文学新人賞を受賞した和人の会見だった。
「その方は宝来さんの恋人ですか?」
1度見ていた裕介でさえ記者の質問にどきりとする。目の前の和人の後ろ姿からも緊張感が伝わってくる。もちろん名無しさんからも。
「はい。ずっと一緒に生きていきたい、大切な相手です」
プロポーズとも取れる和人の言葉に名無しさんの顔はみるみるうちに赤くなった。
しばらく手元を見つめていた名無しさんだったが、パッと顔を上げると和人と裕介と目が合った。「あっ」と3人同時に声をあげる。
「え、ええっと、お、おやすみなさい!」
まだ晩御飯も食べていない夕方なのにおやすみと口にした名無しさんは、そそくさとリビングをあとにする。
「あ、おい!名無しさん!」
元々覗くつもりなんてなかった和人だったが、名無しさんのリアクションが気になってしまい声をかけることが出来なかったのだ。
そんな後悔を抱きながら階段を駆け下りる。
「、、なーんて甘酸っぱい青春なんだ」
そんな二人のやりとりにつられて少し顔を赤くした裕介の独り言だけがリビングに響いた。