Book1

□桜月夜
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雨落ちる満月夜。
ふわり、ふわりと花弁が虚空を舞う。

ここ最近、外を歩くことが少なかったからか、ひんやりとした濃い霧の中で深呼吸すると生き返った気がした。
それと同時に甘く鋭い香りが鼻腔に流れ込み、己の全てを包み広がっていく。
…くらりと眩暈を起こしそうになる。

「…嫌な香りだ」

それでも何故、足は誘われるように香りの下へと向かってしまうのだろうか。


果たして、其処に彼は立っていた。
満月に照らされた雨は銀色の針となって桜を白く光らせている。その木の下にまるで一つの絵の様に高杉は佇み、夜空を見上げていた。
手に持った煙管の煙がゆらゆらと闇に溶け出している。
高杉はさらに振り向いて特徴的な笑みを浮かべる。

「よう、ヅラぁ」

高杉の口調は以前と全く変わらず、昔に戻ったような、気が、した。
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