暇潰し

□暇潰し
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部屋の奥から柄本が顔を見せた。真島はパイプ椅子からガタッと音を立て立ち上がる。

「あの娘、どうやったんや?」

「とりあえず今は落ち着いて眠っている」

「そうか…なら良かったわ」

ふぅとため息をついて再びパイプ椅子に腰を下ろした。

「何だよ、お前にしてはすげぇ動揺してねぇか?」

「ああん?どこがや?」


柄本の視線が真島の手元に移る。咥えていた煙草に火をつけるためライターをつけようとしていた。しかしそれはいくらつけようとしてもつかない。真島は痺れを切らしてライターを放り投げた。柄本はそれを見越していたのかふっと笑い真島の煙草に火をつける。

「何だ?あいつお前の女か?」

「違うわボケ!」

「じゃあ何だよ?」

「…ピンク通りで男二人に襲われとったわ」

「は?…強姦?」

「そや。」

そこから男二人は沈黙した。
二人は部屋の奥にいるであろう女をカーテン越しに見つめている。

女の容姿、それは異常だった。



−−−

30分前の出来事である。柄本はいつものように部屋の奥で新聞を読んでいた。壁にかけてある時計を見やるとちょうど午後11時を指している。今日はもう急患はないだろうと欠伸をすると同時に玄関から何やら物音が聞こえた。急患か、と思い新聞を机に置いて立ち上がった時だった。柄本はぎょっとした。カーテンが勢い良く開いたかと思ったらあの真島吾朗がすごい形相で現れたのだ。腕には華奢で肌が異常に白い女が胸を押さえて息を切らしている。

「はよ見てくれや!!急に苦しそうにしたんやけど…なぁ、こいつ顔色悪すぎやろ?死なんよな?」

険しかった表情が徐々に今にも泣きそうな顔に変わっていった真島から、柄本は女を受け取る。

(嘘だろ、初めて見た)

女は白かった。髪の毛、眉毛に睫毛、そして全身が。まるで生きていない、まさに死人のような色素の薄さ。本来なら息切れで頬が赤くなってもおかしくない。なのに、女の顔には唇の薄いピンクと白以外何もなかった。

しかし見惚れている場合ではない。

「これは過呼吸だな」

「過呼吸?」

「ストレスとか不安感が原因で呼吸困難に陥るんだ。死にはしないからお前はそこで待っとけ」

そう言い残し柄本は部屋の奥へと消えていった。

残された真島は近くにあったパイプ椅子にドカッと凭れると大きな溜息をつき、俯いた。
さっき見た女の姿が目に焼き付いて離れない。蛍光灯の灯りでまともに見た女の姿。人生で見たこともない異様さを醸し出していた。もしかしたらあれは特殊メイクで女はどこかマニアックな店で働いているのかもしれない。そう願っていた。


−−−


「なかなか珍しいものを拝めたな」

沈黙を破り、先に口を開いたのは柄本だった。その口角は微かに上がっていた。真島は言っている意味が分からず眉間に皺を寄せた。

「どういうことや?」

「あれはアルビノだ」

真島は首を傾げた。どこかで聞いたことあるような単語だが何だったか。

「俺もそこまで詳しくはないが、数万人に一人の確率で生まれるらしい。見れば分かる通り生まれつき色素が薄くてな。普通の人間よりも身体が丈夫に出来ていない。紫外線対策やらなんやら大変らしいぞ」

「そうなんか…」

どうやら特殊メイクではなかったようだ。それもそのはずだ。肌の感触は何かを施されたようなものではなかった。しかし数万人に一人という確率とはどういうものなのだろうか。真島には想像もつかない数字だ。難しい話は無だと言うように首を横に振る。

「神室町であんなに目立つ奴なんていなかったよなぁ?今日初めて神室町に来た奴なのかもしれんの」

「そうだな。あの容姿だったらすぐに有名になるだろう」

唐突に女のことが気になった。名前、どこに住んでいるのか、どうして神室町に来たのか、どうしてそんな容姿なのか。聞きたいことは沢山ある。

「とりあえず起きるまで待つかいな」

煙草を咥えながらニッと笑う。

女に興味を引かれたのが影響したのか
まるで殴り合いの直前のように真島の左目は疼いていた。
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