提督のmain

□あなたの温度1
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彼女はひとり、海を眺めていた。
そして、海を眺めてはひとり溜息をつく人を待っているのだ、だがその人物とはもう会えない。
『いってきます。◯◯さん』
その人はそう微笑み、この場所から海へ出たのだ、そして その人が帰ってくることはなかった。
「....赤城さん.....」
彼女、加賀はそう呟いた、もう帰ってくることもない人をひたすらに想い続けていた。
そんな日が毎日続くのかと思っていた、そんなある日
「加賀!ちょっと来てくれ、」
提督から呼ばれた加賀は弓道着に身を包み髪を片方結って提督室の前まで来た、
「提督、加賀です。」
「あぁ、はいっていいぞ」
いつになく提督の声の調子がいい、何かいいことでもあったのかしら、そう加賀は首をかしげノブを回しドアを開けた、その光景を見た加賀は目を疑った、同じ弓道着に身を包んでいる小さな少女が提督の膝の上にちょこんと座っていたのだ。見た目は小学生くらいだろうか、大きなパッチリとした目に髪は腰まであるかと思えるような長さ、そして若干焦げ茶色である、加賀は一瞬でその人物が誰かわかった。
「っ....あか....ぎ..さ.....ん.....?」
『きっと戻ってきますよ慢心はしないですから』
赤城があの日そう加賀に伝えたその日に赤城は沈んでしまった、二度と会えないと思っていた人物が再び目の前にいたのだ、
「加賀、もっと入ってこい、さ。赤城挨拶をするんだぞ」
苦笑しながら提督は膝に座っていた赤城を両手で持ち上げ地面に置いた、
「はじめましてっ!!かがしゃん!いっこうしぇんのあかぎですっ!!!」
所々呂律が回っていなかったがその少女は加賀にお辞儀をし、挨拶をした。
「は..はじめまして....加賀...です」
何が何だかわからない状況に置かれてある加賀に提督は詳しく話をはじめた、
「あの日赤城が沈んだと聞いたときは俺もショックだったよ、あんなに元気でいったのにな...それでも、残りのメンバーが帰ってきたとき、ひょっこりと現れたんだ、もしかして赤城が帰ってきたんじゃないかって思ったんだが、期待はするもんじゃないな、全く記憶がないみたいなんだこの子は」
赤城の頭を優しく撫でる提督、まるで父親と娘のようにみえた、赤城はにこにこと笑顔を加賀に向けている、
「加賀、無理承知で聞いてくれ、赤城の面倒をお前に任せたいんだ。」
「?!」
「無理なお願いなのは充分承知だ、だが頼む、この子が本当にあのときの赤城なら何かを思い出すと思うんだ、そう、同じ一航戦で戦ってきた加賀となら、」
そう提督は加賀をまっすぐ見つめた。
加賀は黙るほかなかった、赤城の面倒を見る、それは赤城を、本当の赤城を見失うことになる。温厚で優しくて、少し抜けている部分もあって、でも戦場になると鎮守府にいたあの赤城とは別人のようになっていつになく真剣になる、そんな凛々しい赤城が加賀は好きだった、
「....提督には、確信があるのですか」
震えた声音で加賀は尋ねた、自分に赤城を育てる権利なんてない、そう思っているからだ。
「...いや。確信はない、だが俺にはわかる、この子はきっと加賀を支えてくれる、きっと。」
提督はそう言いながら席を立ち上がり、加賀の横で止まり頭に手を置いた、
「あの子の未来はお前にかかってる..」
頭から手を下ろした提督は振り返り赤城に微笑みかけた、
「赤城、今日からこの人がお前の世話係さんだからな、しっかり言うことを聞くんだぞ」
「て..提督っ!!」
加賀は提督の方をみた、提督は黙って頷くとそのまま部屋を後にした、
「.....」
加賀はちらりと赤城をみる、赤城は視線に感ずいたのか加賀に笑いかけた、
「どうしたんですか??」
「っ....いえ、なんでもないわ」
そっぽを向く加賀、赤城はニコニコしながら加賀に尋ねた。
「かがしゃん!ゆみのつかいかたおしえてくらさい!」
「っえ?!」
面食らったように加賀は目を丸くした、赤城からそんなことを言われたことがないからだ...赤城は嬉しそうに弓を両手に抱えて加賀の前立っていた、
「....蒼龍や飛龍に教わりなさい。」
加賀はそういうと赤城に視線を合わせずつかつかと提督室を後にした、しかし赤城は付いてくる。
「かがしゃんじゃなきゃダメです!」
とことこと加賀の後ろからピタリとも離れない赤城、加賀はしばらく無視をしながら歩いていたが遂に立ち止まった。
「...」
キッと加賀は振り向き赤城を睨みつけた、赤城はびくりと身体を震わせその場で竦む、
「何度言えば気がすむんですか?蒼龍や飛龍に教わりなさいと言ったはず...わたしは疲れているからこれ以上付いてこないで。」
少々きつい言い方になってしまったのに気づいたのかハッと加賀は自分の口を手で覆った。
赤城は持っていた二つの弓のうち一つを下ろし、もう一つを加賀に差し出した、
「はいっ!!かがしゃんの!」
「...」
黙って受け取る加賀、
「!...」
弓を受け取る際、赤城の手はガタガタと震え地面にひとつ、涙が落ちたのを確認した...
「っ...ごめんなさい、そんなに言うつもりは...」
加賀は慌てて赤城の頭を撫でながら涙を拭う、
「やっぱりかがしゃんですね!」
顔を上げた赤城は笑顔だった、少し泣くのを我慢しているのか目には今にもこぼれそうな雫が。
『この子はきっと加賀を支えてくれるさ』
先ほどの提督の言葉が脳裏をよぎる、本当にあの赤城さんなら...加賀は瞳をスッと閉じひとつ深呼吸をしてひらいた、
「...わかったわ、練習しましょう」
「いいの?!いいんですか?!」
ぱぁっと赤城の顔が輝く、そして嬉しそうに自分の弓と矢を手にして加賀の隣へときた。
「いいですか、弓を持つ手はこうです、真似してください」
ぐぐっと弓を引き絞る加賀、赤城もそれにならい、弓を持ち上げ矢を引く、赤城の構えを見た加賀はハッとした。
(この子....覚えてる?!)
練度の低い艦娘は砲撃や航行もままならず練度の高い艦娘が一緒に付いて教えるものである、なのに練度が低いはずの赤城は加賀と全く同じ構えを見せた。身体のブレもなくキッと前を見据えている、
「....打ってみて...」
加賀は赤城の前にある的を指差した、一発で当たるわけがない...ただでさえ一発で当てるというのは加賀にも至難の技で練度1の赤城が当てれるわけがないと思ってた、
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