崩れさる理性…その後日談
□お持ち帰り*才蔵編
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ようやくの思いで屋根に続く梯子を上りきると、そこにはひとり佇んで月見をする才蔵の姿があった。
月の明かりに照らされ物憂げにした端正な横顔に声をかけられずにいると
「何してんのさ、座れば?」
いつものそっけない言葉で促される
あわてて、才蔵の側へ寄ろうとすれば案の定・・・法則が働くというか何というか
お決まりごとのように躓く
あわや落下の大惨事を予感するも、目を瞑り身を屈めた瞬間鼻先に見知った香りがする。
「馬鹿だね・・・有里は。」
「俺がいなかったらどうすんの?」
「落っこちないように縄で括っとく?」
到底通常の人間では反応できない速さで抱きとめられているのであったが、そうでなければ里の稼ぎ頭になれるはずもなく。
「へっ?」
「縄・・・ですか?」
「何で、縄なんですか?」
ニコニコと才蔵はこともなげに
「だって落ちたら痛いでしょ?だから括るよ」
「そ、そりゃ落ちれば痛いですけど、何で今縄なんですかっ!」
「だって屋根の上だよ・・・」
ずるい、耳元で囁くなんでずるい。
何も抵抗できなくなること知ってて、
「誰も来やしないよ。どうする?」
燦燦と耀く月の灯りのもと、緋色の瞳をした銀髪の男・・・背中には2本の忍者刀。
あまりにも悲しすぎる過去を背負ったこの人を拒めるはずがなく
「痛いの嫌ですよ、痛くしないでくださいよ」
才蔵は有里を抱えスタスタと、うだつのある方へ歩いていくのだった。