激情!霧隠才蔵
□囲炉裏編
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**ぷろろーぐ**
ここは才蔵の屋敷の一室
「ふぅ・・・」
才蔵は熱の篭った息を吐き出すと、腕の中の有里はすやすやと寝息をたてていた。
(ふん)
完全に無防備に寝入る姿を自分の瞳にとらえ、悦に入って有里の首元に顔を埋めようとしたその時
その白い首筋には小さな等間隔の二つの傷跡。この傷跡には否が応でも戦慄を覚える
有里を失いたくないと強く想ったあの日を思い出すのだ
信玄公が臥せった際、一緒に連れ立ち薬師の元へ向かった道中のことを
有里は毒蛇に噛まれ危うく命を落とそうとしていたのだ
焦燥感を覚えギュっと、抱きしめる腕に力をこめる
(失いたくない)
今までの自分からは想像できぬ、愛しいと想う者への執着
かつて姉の雪に言われた言葉【夜は夜だ】己の夜は明けたのか・・・
あたらめて有里の首元へ顔を埋め、きゅっとその身体を抱きしめる
「ん・・・さい、ぞさん?朝ですか」
「まだ」
顔を埋めたまま呟けば、髪に手を触れ撫でられる
(心地いい)
「ふふっ・・考え事ですか?」
有里が微笑みながら嬉しそうに問えば
「何でもないから」
(聞かなくていいから)
「ふふふ・・何でもなくはないですよね」
才蔵の髪を撫でながら、仕舞いには背中をポンポンとあやすように叩かれる
才蔵は妙にいたたまれない気持ちがしてきて、有里の襟を広げ首筋に舌を這わせ、らしくない自分の感情を打ち消すかのように行為に至ろうとする。
「才蔵さん。一緒ですよ、ずっと」
心の臓に突き刺さるような有里の一言
「うん」
堪らず即答してしまう・・・ずいぶんと飼いならされちまったもんだよ、お前さんには
「団子作って。焼いて食いたい」
(ひとりじめにしたい)
「・・・・」
「有里?」
すぅすぅと寝息をたてる我が想い人
(・・・寝やがった・・・)
才蔵は悶々としながらも寝ることを決め込んだのであった
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