激情!霧隠才蔵
□温泉編
2ページ/4ページ
「才蔵、有里の笑顔を曇らすなよ」
(朴念仁の幸村が何言ってんだよ)
「幸村は有里に興味があるのかい?」
その瞳を半眼にし幸村を見やる
「ば、ばば馬鹿!違う!お前が怪我をすれば有里が悲しむっ!」
「そりゃ、料理は美味いし、良く気がつくし、可愛いし・・・ぶっ!ゴホンっ!」
「そそ、そのだなっ・・・妹というか・・何と言うか・・・ははっ」
(・・・チッ・・・)
「幸村、俺に何事か起きたときは、お前にしかあいつを託せない」
実際、忍の任務に常に危険は付きまとう。相手を手にかけ返り血を浴び・・・そんな俺でもあいつは待ち続ける。
「ま、手はつけちまってるけどね」
と薄ら笑いを幸村に向けると
「有里を泣かせるな」
まっすぐな幸村の視線が刺さる
(幸村は・・・幸村も…)
「温泉でゆっくり養生して来い。しっかりと労ってやれよ。有里はお前のことしか見ていない」
どこかはにかんだような、寂しげな笑みを含んだ表情で幸村は己の気持ちを吐露したのだ。
「・・・。才蔵」
「何さ」
「・・・・。」
無言で才蔵をじっと見つめる幸村
「酒」
「は?」
(何だよ酒って!)
「土産は酒がいい」
「あー。はいはい」
(何を言うかと思えば・・・。)
「とびきりに美味いのを頼むぞ!」
うきうきと足取りも軽く、天然ぶりを発揮する幸村の言動にどっと疲れが押し寄せる
(・・・。あなどれないね。あながちあの気持ちは嘘ではないはず。幸村と言えど…)
幸村の背を見送ってから、湯治場へ向かう支度をすべく屋敷へと足を進める才蔵のその手の中には、いつの間にか撫子の花が握られていた
(いつも私を愛して・・・か)
その手のなかの撫子を眺め、ふと頬がゆるみ、湯治場への行程を思案してみるのだった
************
撫子(ナデシコ)の花言葉「いつも私を愛して」