排球_Short_

□Darling
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「鉄朗、テレビ見てないなら消してよ?」


さっきから、彼氏・黒尾鉄朗の高らかな笑い声が、キッチンの方にパッタリと聞こえなくなった。また研磨くんや木兎くんとLINEでもやりだしたんだろう、と思って声をかける。
それでも、私の元に鉄朗の声が帰って来ることはなく。私の左耳に入って右耳から出て行くのは、テレビから聞こえてくるタレントさんの声だけ。


「鉄朗?」


いつもなら、「んー」とか「あー」とか、素っ気ない返事が返ってくるはずなのに。不思議に思って、タオルで手を拭きながら、鉄朗が座っているソファへ歩く。


「てつろ、...あ」


こんな煩いテレビの目の前で、スヤスヤとお眠りモード。ちょっと呆れて、小さい頃からお決まりの、寝癖で逆立った髪の毛をクシャっと撫でる。でも、この頑固なトサカは、なかなか形を崩してはくれない。


「寝るならお風呂入ってからにしなよ?」


普段より少し可愛らしい鉄朗の寝顔に、微笑みかける。こういうときだけ垣間見える年下の可愛らしさに、また惚れ直しちゃうんだ。


「んー...」


穏やかな顔つきで、くるり、と器用にソファの上で寝返りをうつ。
どんな夢見てるのかな、とか。きっと疲れてるんだろうな、とか。


「よし、」


もっと私も頑張らなきゃな、とか。鉄朗の寝顔には、いつもいろいろ考えさせられる。

.

「...」

 
寝室に脱ぎっぱなしになった、黒地に赤のプリントがされたスウェット。それから、裏返しになって洗濯カゴに放られてる靴下。ほかにも下着とか、皺くちゃになったハンカチとか。勿論、私のではないわけで。


「...何日前のよ、これ」


ぜーんぶ私がやんなきゃいけないの知ってる?まあ、こういうの全部知ってて付き合ってるんだけどさ。
高校のとき、コロッケ買い食いしながら、帰り道で友達と語りあって作りあげた理想の人と全然違うのに。なんでだろうね、こんなにも強く惹かれたのは。


洗濯物を全部干し終わり、電気ケトルでお湯を沸かし始める。
そういえば、今日はよく行く薬局のポイント2倍デーだ。なんか切れてる化粧水とかあったかなあ。今日晩御飯何にしよう。昼は適当にサラダ作るとして...。鉄朗に聞いたら絶対サンマの塩焼きとか言うからなあ。今旬じゃないっての。
いろんなことを考えていると、ケトルが蒸気を発し始めた。


「ああ、沸かし過ぎた!!」


急いでスイッチをOFFにし、紅茶のティーバッグを取り出す。すると、聞きなれた着信音がリビングのテーブルから聴こえてくる。


「はいはーい、」


ティーポットに先ほどのティーバッグとお湯を注ぎ入れ、急いで携帯を手にとる。


「なんだ、鉄朗か」


トットッ、とリズムを奏でてメールを開けば、鉄朗から。
”こっち雨降ってきた。洗濯物取り込んどけよ”
その一行と、バカにしたような絵文字にカチンとくる。


「知ってたし。今日雨降ることぐらい知ってたし。だから鉄朗のしか洗わなかったんだしざまあみろ!」


急いでベランダに出ようとけれど、まだ続きがあるようで、画面をスクロールさせる。だいぶ改行されたあと、文章がやっと現れた。
”あと傘忘れたから駅まで迎えきて”


「...ばーか」


画面の向こうの君の表情が、ちょっとだけ見えた気がした。

.

「じゃーん」
「...何、」


私は、お気に入りの服2枚を持って、鉄朗の待つリビングへ出た。
今日は鉄朗がデートに誘ってくれた。彼からのお誘いは非常に珍しく、半年に1回くらい。だから、彼の気に入った服で、彼の隣を歩きたい。なのにだ。彼は全く気にしていない。


「好きな方着りゃいいじゃん」
「だから決まらないの、それが」


一向に決まらず、結局自分で判断を下すことにした。


「あーあ、」


欠伸なんかしやがって!だいたい鉄朗がどっちでもいいとかいうから時間がかかってるんだから...。


「悪うございましたねえ」
「ん"」
「ん"ってなんだよ。般若面でお前が睨んでくるからだろ」
「悪うございましたねえ」


それからちょっとして、桜色のフレアスカートとブラウスにニーハイ姿で、再び鉄朗の前に姿を見せる。
特に何にも反応なしなものだから、クルリ、とその場で回ってみる。スカートが風を孕んで広がる。それから鉄朗を見ても、反応なし。


「...何?」
「......べっつに」


ちょっとぐらい「似合ってる」とか言われてみたかった、なんて言わないよーだ。鉄朗が玄関のドアを押さえててくれてる間、いそいそとパンプスを履く。


「あ。携帯!」
「はあ?」


呆れ顔の鉄朗を玄関に置いて、寝室へと携帯を取りに行く。そういえば充電したままだった。


「...バーカ」


玄関のほうで、そんな声が聞こえた気がした。

.

「かわいい姿あんま見せつけんじゃねえよ、バーカ」

.

お風呂上がりの私を待っていたのは、ホットミルクだった。髪をタオルで押さえながら脱衣所を出ると、珍しく鉄朗がキッチンに立っていた。ストレートヘアの鉄朗に胸が高鳴りなんかしてなくもなくも。


「え、何々。お腹すいた?」


タオルを肩にかけ直し、何をやっているのかといそいそと鉄朗の隣に並んで立つ。


「いや、ああ...。最近風呂上がり、飲んでるみたいだったから」


そういう鉄朗の手には、レンジで温められて湯気が発している、お揃いのマグカップ。少しだけ鉄朗の頬が紅いことには、触れないでおいてあげよう。
鉄朗の細い体は器用に私の横をすり抜け、ソファへと向かう。


「飲んじまうぞ」
「え〜」


照れ隠しが可愛く思える。さっきの言葉も、いつも私を見てくれているようで嬉しかった。たまにこういうデレが出るから、一緒に暮らしてると楽しくなる。
ソファに並んで座り、鉄朗が見ていたドラマを引き続き見る。


「この女優さん可愛いね」
「だろ、俺こういう人タイプ」
「でも私こっちの人の方が好き」
「ああ、それわかるわ。どっちも可愛いよなー、足細ぇし」


嬉々として話す鉄朗をみて、ちょっとだけ、この女優さんたちに妬いた。
鉄朗に可愛いなんて言われたこと誇りに思って仕事しなさいよ、あんたたち!私なんか鉄朗に可愛いなんて言ってもらったことなんか指折数えるくらいしかないんだから!
そんなことを思いながらテレビを見ていると、隣からの熱い視線に気づく。


「な、なんでございましょう」
「...バカ」
「!?え、何で?」

.

「黒尾鉄朗さん」
「え、ああはい」


ソファで雑誌を読んでいた鉄朗の前に、正座をする。別に、今この瞬間に言わなきゃいけない話でもないけれど。なんとなく今言いたいから、鉄朗の楽しみを奪ってでも今言う。
鉄朗も、私と同じように、雑誌を横においてソファの上で再座をする。


「いいですか、今からグダグダと長い話をします。途中で寝てしまっても構いませんが、その際は鼻に練りわさびを突っ込みます。覚悟しておいてください」
「...はい」


鉄朗はコクコクと頷きながら私の話を聞く。練りわさびが相当効いているんだろう。


「私はここ最近とっても幸せな毎日を過ごしています。 たまに脱ぎ散らかされたあなたの服やなんかにイルアッとくることもありますが、なんだかんだあなたのことが大好きです。 デートや買い物の時は毎回毎回お騒がせをしてしまいますが、懲りずに付き合ってください。時間かかってるってことはそれだけ貴方のこと考えてるってことです。 貴方のコトが好きです。大好きです。...あ、あ、あ...、 愛してます、だから」


途中で言葉を切って鉄朗を見上げれば、耳と頬を紅くして、私を見つめていた。相変わらず二人とも正座をしている。


「...だから」
「、はい」


ちょっと強張って緊張した鉄朗の声が、可愛く思える。


「...言わない、バカ」
「え、言ってくれないの」
「もう知らない」


立ち上がって、照れ隠しのようにその場を立ち去ろうとしたけれど。鉄朗に腕を掴まれてそれは阻止された。


「ねえ、言ってくれないの」


そのまま私は、鉄朗の胸元に飛び込んで抱きつくような形となった。そして、鉄朗は私の体を、その細く長い腕でキュッ、と締め付けホールドした。


「っ、...」
「ねえ、続き」
「、...さい」
「んー?なあに」


くそう、年下の癖に。意地になって、私はそのまま鉄朗の頬をつねって、そのままニッと笑った。


「痛い、痛たた」
「男から言いなさいよね、バカ」
「...うっせ」


ずっと、なんなら一生、そばにいてください。


「練りわさび突っ込んでやる」
「勘弁してください」




書いてて楽しゅうございました...。
名前変換使ってません、ごめんなさい!

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