排球_Short_

□恐れ入ります
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学校までの最寄り駅でバスを降り、冬の朝の冷たい風に全身を震わせる。いつもより30分以上早い時間の登校は、私には苦行そのものに感じられた。今日は、朝早くから生徒会の活動があるのだ。

1月10日、ここ東京では、雪がチラついている。けれど、これくらいの小降りならば、傘をささずとも心配はない。逆に風情があっていいじゃないか。そう考え、私は傘をささずひとり通学路を歩く。

スマホ対応の手袋で、ちらちらと天から舞い降りてくる粉雪を受け止める。けれど、それもすぐに溶け、手袋に小さなシミをつくった。


「...本当に、傘なしで大丈夫かな」


家を出た時より、若干降りかたが激しくなったように感じる。心配になり、私は自分のバッグからスマホを取り出した。この粉雪の舞うなかで機器類を扱うことに若干抵抗は覚えたが、かまわずロックを解除する。

すると、さっきまで肩や頭に舞い降りてきた雪が止んだ。
上を見上げれば、見慣れない無地の傘。そしてそのまま視線を横に移すと、整った顔立ち。


「恐れ入ります赤葦くん」
「どうも」


私と私のスマホの救世主は、同じクラスの赤葦くんだった。こんなに朝早くからバレー部の朝練か、と考える。まだ1年生なのに、もう公式の試合に出てるって噂を聞く。同学年なのにすごいなあって思った記憶がある。

赤葦くんは、チラッと私のスマホの画面を見て、また前を向きなおした。さりげなく私の歩幅に合わせてくれてたり、車道側を歩いてくれてたり。こういうことできる人って、やっぱりすごいな。


「天気、荒れそうですか」
「え。ああ、」


画面をスクロールさせ、3時間ずつの予報を見つける。


「もう大丈夫みたいだよ。夕方くらいから止んできて、赤葦くんが帰る頃にはもう大丈夫」
「俺は?」
「うん、私が帰るときはまだ止んでないっぽい」
「...そうですか」


私は、部活には所属していない。けれど、生徒会の活動が割と遅くまである。と言ってもバレー部には及ばない。それに、赤葦くんは自主練習までしていると聞く。
7時には完全に止んでるみたいだから、赤葦くんは大丈夫だ。私の帰宅時間は微妙だな。まあ、これこそ傘がなくても大丈夫だろう。
いろいろ考えながらスマホを元に戻す。もう校舎がはっきりと見えてきた。


「今日、」


校門直前の信号は生憎赤で。2人同時に足を止めると、赤葦くんが声を発した。


「はい?」
「...帰り、時間があるなら。...送っていきますから練習終わるまで待っていてもらえませんか」


最初こそ口ごもりながら言っていたものの、緊張からなのか、早口に大事な言葉を滑り出す赤葦くんが、ちょっと可愛くみえた。


「はい、よろしくお願いします」


赤葦くんに笑顔を向ければ、少し安堵したようにため息をひとつ。気づけば信号が青に変わっていて、2人揃って右足を前に出した。

.

放課後。もう外もすっかり暗くなっていた。校門を出て行く生徒も垣間見られるようになったので、赤葦くんとの約束を守る為、適当な理由をつけ挨拶をひとつし、生徒会室を出た。まだまだバレー部の活動は終わっていないと思うけれど。

予想は的中。体育館からは、運動部特有の、未経験者には何言ってるかわからない大声や熱気が伝わってきた。上履きを脱いで手に持ち、体育館の重たい扉をゆっくりと開ける。


「失礼しま〜す」


私の蚊の鳴くような声に、練習に熱中している彼らが気づくわけもなく。容赦なく壁にはスパイクやサーブが打ち込まれ、前のめりのなって胸からフローリングの床に滑り込んでいったり。恐る恐る、扉を今までの倍ほどの広さ開ける。それでも私の存在に気づく人はいない。みんな真剣なんだな、と。

ダシュッ___


「っ!?」


私のすぐ真横に、とんでもないほどの勢いで、ボール(みたいな凶器)が飛んできた。
ここにいては行けない、そう悟って、赤葦くんを図書室で待つことにした。20センチほど開けた重い扉を、ゆっくり閉めようとしたとき。


「あ」


と、赤葦くんの声が聞こえた。ちょっとだけ顔を出すと、やはり。それと、赤葦くんの隣には、ミミズクみたいな頭をした人が、目を見開いてこちらを見ていた。


「赤葦くん」
「お、何々赤葦、カノジョ!?」


ミミズクさんが、赤葦くんに絡む。絡まれた本人は若干うざがっているけれど。どうしたものかと固まっていると、金髪の人がこちらへ寄ってきた。見たことない人だから、先輩か。


「赤葦の知り合い?」
「あ、はい」
「そう。上履き借しな。上行っていいよ」
「あ、ありがとうございます」


先輩に上履きを預け、上へと繋がる階段へ急ぐ。


「ひいぃっ」


再確認した。ここは危ない場所だ。

ギャラリーにつき、体育館全面を見下ろす。自然と赤葦くんを探してしまう。さっきの金髪の人から少し目線をずらすと、赤葦くんがいた。ずっとこっちに目を向けていたようだ。軽く手を振れば、ちょっと目を見開いてすぐ練習に戻っていった。

練習が終って暫く、校門に寄りかかる。何人かを目で見送っていったけれど、赤葦くんの姿は見当たらない。校内を覗こうと思うと、先ほどの金髪の先輩が目に入った。ポケットに手を突っ込んだまま、先輩は小走りで来た。


「どうも、」
「どーも。赤葦もうすぐだからさ」
「あ、ありがとうござます」


軽く手を振って、その人はまた小走りで、私とは反対方向に進んで行く。先輩が言っていたように、ちょっと待つと赤葦くんが鼻の先を赤くして隣に現れた。


「すみません、」
「いえいえ」


天気予報はしっかりと当たり、もう雪が空から降ってくることはなく。赤葦くんの無地の傘も閉じられ、彼の手に握られていた。


「すみません、俺から誘ったのに」
「気にしないで。いろいろ考え事してたから」
「考えごと?」


へへ、と笑い、赤葦くんとの間をつめて歩く。


「バレーしてる赤葦くんも、普段の赤葦くんも、かっこいいんだなあって」
「っ、は」


言って赤葦くんの顔をみれば、ポカンとして私を見て、裏返った声を発した。もう一度赤葦くんに笑顔を向けると、彼は
耳と頬を紅潮させた。


「、っ行きますよ」
「寒さですか?耳と頬が紅いですよー」
「...」


少し揶揄いつつ言えば、無言で額を小突かれた。


「いたっ」
「ふざけるのもいい加減にしてくださいよ、じゃないと」


赤葦くんは、私の肩をグッと掴んで自分のほうに引き寄せた。


「おフザケじゃ済ませませんから」
「っ、」




後半になるとセリフが多くなってしまう!!すみません…。
赤葦くん微甘です!

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