排球_Short_

□失恋したら、
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私の恋は、大体の場合実る事はない。例え実が生ったとしても、熟す事なく地に落ちる。
そんな私を、いつも宥めてくれるのが、同じクラスの黒尾だ。1年の時から、私が失恋をすると、必ず誰もいない視聴覚室で私を宥めてくれるのだ。

それを聞いて、私と黒尾の仲はさぞいいのだろうと考える人も少なくはない。実際、お互いがお互いの友達に、そういった類の話題で弄られることはしょっちゅうだ。
しかし、実際はそうでもない。ただのクラスメイト。そんな私たちが、何故宥め、宥められる間柄なのかは、本人たちにもわからない。わからないけれど、自然に2人は視聴覚室へと足を運んでしまうのだ。


その日も、やっぱり私は失恋をして。自然に足を視聴覚室へ運んでいた。いつもなら、たぶんもう、黒尾は中にいるはずだ。そう思って、ドアに手をかけようとしたその時。
ドカッ、という鈍い音と、机や椅子が、床を擦ったり、倒れたりする音が、微量ながら室内から聞こえた。


「!?黒尾?」


びっくりして、扉を開けようとしても。どうやら内側から鍵がかけられているらしく、微動だにしない。私はいよいよ焦って、扉をドンドン、と叩く。


「黒尾?黒尾!?」


私の焦りが増すのと同時に、室内もヒートアップしているようで、また鈍い音が微かに聞こえた。どうしよう。黒尾が怪我をしていたら。

そんな気持ちと、嫌な汗が首筋を伝った時、鍵と扉がほぼ同時に開いた。チャンスと思って顔を覗かせると、室内から勢い良く男子生徒が飛び出してきて、私はびっくりして尻餅をついた。それから数秒もたたないうちに、今度は黒尾が飛び出してきて、さっきの男子生徒に罵声を浴びせた。
珍しい黒尾のそんな姿を、目を丸くして見ていると、向こうがこちらに気づいたらしく。またいつものしたり顔をして、手を差し出してきた。その手を取って立ち上がり、2人で室内に入る。

私がドアの前で立ち止まると、黒尾は机や椅子をきちんと並べ出した。


「...ああいうこと、いつもやってるの?」


いつも、とは、こうして私が黒尾に泣きつきにくる日のこと。並べ終えた黒尾は適当なところに座り、頬杖をつく。


「あ?んなわけねえだろ?」


すれ違った時は気がつかなかったけれど、よくよく思い出すと、あの男子生徒は、今日の昼に私を振った彼だった。


「なら、いいけど」
「おう」
「私さ、今日振られて気づいちゃった」
「何を?」


ゆっくり黒尾に近づいて、いつもとは違う一言を放つ。


「私黒尾のこと好きだよ」
「...はあ?」


黒尾は、ついていた頬杖を崩し、私を呆れた顔で見てきた。


「お前なあ、そうやって手近な人間に軽い気持ちでそういうことを、」
「軽い気持ちなんかじゃないよ」


今日、彼に振られた理由は。黒尾が私のことを好きだから。どうやら今回私が恋した彼は、黒尾の友達だったようで。だから多分さっき、2人で話してたんだなって。そしてきっと、黒尾は彼のことを、彼は黒尾のことを殴ったんだろうなって。わかった。


「...でもお前は、俺のことは好きじゃない」
「なんでそんなこと、言うの」
「俺はお前を1年の頃から見てんだぜ?」
「私は自分を17年も前から知ってるよ」
「...だいたいお前は、」
「私は」


黒尾が言いかけた言葉を遮るように、声を出した。
とっさに出た一言が「私は」で、それからどうつなげようか迷ってしまったけれど。


「...黒尾がいなきゃ、ダメだ」


控えめにそう言ったら、黒尾はちょっと頬を掻いてから、私の頭を撫でた。


「もう俺、部活行くから」


私の返事を待たずして、黒尾は早足に視聴覚室を出ていった。

どうして?なんでいつも黒尾は、私を、失恋した私を宥めてくれていたの?そんなことしないで、いつもみたいに他人の、私の弱さに漬け込んで、告白してくれればよかったじゃん。そしたら、私だっていらない失恋もしなかったし、黒尾だって辛い思いしなくて済んだじゃん。


「、」


そう言ってやろうと振り返っても、黒尾はいなくて。静かな視聴覚室には、


「っ、ひっ、...」


押し殺した、私の泣き声が響いた。

私の恋は、大体の場合実る事はない。例え実が生ったとしても、熟す事なく地に落ちる。
そんな私を、いつも宥めてくれるのが、同じクラスの黒尾だ。
けれど、その黒尾すらもう、いない。




こういうお話が衝動的に書きたくなりまして...。
切はあまり得意ではないのですが、たまに書きたくなります。

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