籠球_Short_
□キャラメル1個
1ページ/1ページ
ある日の昼休みのこと。レジ袋を覗き込んで、しょんぼりしている少年と、私は出会った。
昼休み、自動販売機の周りで友人たちと話していると、体育の教師に捕まった。今日は、5限の授業が体育なのだ。なので、先生に、「体育館の鍵を開けておいてもらいたい」と頼まれた。
私は、クラスの大半の推薦のおかげで、クラス委員というなんとも面倒くさい委員会に属している。そのため、今回のような頼みごとはしょっちゅうある。
それから、友人に少々の愚痴をこぼしてから、飲み終わった牛乳の紙パックをゴミ箱に捨て、重たい足を体育館へと運んだ。
もうジャージには着替えていたし、鍵は先生から先ほど預かったので、なんの問題もなく事は進んでいた。
けれど。
体育館への渡り廊下まで着くと、一際目立つ紫色の髪の毛が見えた。
それは間違いなく、同じクラスの紫原くん。彼は、体育館の出入り口付近にある水道に、腰をかけていた。
紫原くんは異様なまでのお菓子好きだと聞いた事があったので、今もきっと、お菓子を食べているんだろうと思った。いや、いたんだろうと。学校の近くにあるコンビニの袋で遊んでいたから。
そんなことを思いながら、体育館へ入ることのできる別の場所を探すことにした。
何故なら。私は若干紫原くんが苦手なのである。堂々と前を通って声でもかけられたら、きっときょどる。
しどろもどろしていると、「お腹空いたなー」という紫原くんののんびりした声が聞こえてきた。
あまりにもぐったりしている紫原くんを見て、可哀想に思い、どうにかしてやれないものかと物陰に隠れて考えていると、不意にさっきの出来事が思い出された。
実は先ほど、他のクラスの友人から、キャラメルのおすそ分けを貰ったのだ。授業が始まる前に食べ終わってしまえばいいや、と考え、ズボンのポケットにしまっておいたのだ。
私の大好物なため躊躇ったが、ここはやはり思いやりの心が大切だろうと考え、紫原君の前に立った。
「ん〜?何」
「あの、これ!」
紫原君のものと比べると、2まわりくらい小さな私の手のひらの上に、1個のキャラメル。
「...くれんの?俺に?」
「うん」
「...ありがと〜」
紫原君は少し考えて、またのんびりとした口調で感謝の言葉を述べ、私のキャラメルを手に取った。
「それ食べて、体操服に着替えてよ」
「え〜、めんどくさーい」
「めんどくさいじゃないよ。ほら」
「いーやーだー」
これが、若干苦手だった紫原君が、大好きになった瞬間。
「敦くん?」
「俺体育やんないよ」
「キャラメル倍増キャンペーン実施中だよ」
「何倍?」
「3倍」
「着替えてくる〜」
のっそのっそ階段を上がっていく敦君の後ろを、キャラメルの箱を手に追いかける。
キャラメル好きです∋∞( ´_ゝ`)∞∈むっくんほのぼの、かな?