曇天に笑う長編


□主。そなたと共に。
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いつじゃったかのう。

儂が封印されたのは。


そんなことを考えながら、竜胆は時代の移ろった森を、祠のすぐ後ろにある木の上に、ふわりと座る。

あいつは元気にしとるじゃろうか。

などと呟くと、

「誰だっ…!」

「お?」

声がした方を見ると、黒の短髪、袖のない赤と黒の衣服を身に纏った少年が

「てめぇ、どっから入った!!」

と叫ぶ。
しかしその手には、おいなりさんの乗った皿がある。

「なんと!!お主、この祠にそれを供えに来たのか!?」

思わずバサリと地面に降り立つと、その少年に詰め寄った。

「なっ!?」

じり……と後ずさりする少年。
困惑しすぎて警戒の怠る少年から、皿を奪うなど容易。
大きな口を開け、おいなりさんをパクリと一口頬張る。

「!!美味じゃ!!!!!!」

頬っぺたが落ちるくらいに上手い!

一瞬で無くなるそれを呆然と見て、その少年の意識はやっとこちらに戻ってきた。

「てめえ!それはここのお稲荷さまに用意した……」

声を荒げる少年に竜胆は向き直る。

「うむ。確かに貰ったぞ。とても美味であった。」

「……は?」

「お主、いつもここに供えてくれているのか?」

「っ、おい、お前のために持ってきたんじゃねえ!」

「ん?いや、儂のために持ってきたのじゃろう?」

「はぁ??」

竜胆はやれやれと首を振る。

「お主、名は?」

「……。」

「……嗚呼、儂が先に名乗らんとな。」

音も立てず祠に近づき屋根に手を置く。
その瞬間、強い風が吹いた。

その少年は腕で風を凌ぎ、その腕を退け目線を戻す。
その先にいたのは

「儂は竜胆。この祠の主じゃ。」

尻尾を何本も生やした目の赤い、人外。

目を見開く少年に近寄り跪く。

「お主に付き従うことを決めた。主人。そなたの名は。」

凛としたその表情、先程とは違う赤い目に射止められた少年。

「……曇、空丸。」

その名を口にした。

「曇空丸。お主の側に置いてはくれぬか。」











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