おそ松夢 短編

□近所に住む彼
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名前side


本当に、偶然だったんだ。

いつもの本屋で、大好きな作家さんの新刊を買いに来たついでに、何かおもしろい本は無いかと、小説の棚を見ていた。あ、この本なんかどうだろう?と、一冊の本に手を伸ばす。

「はぁ・・・・」

ちょうどその時、となりで溜息が聞こえたんだ。

ふと隣に目をやると、赤いパーカーを着た男性が、棚の前で頭を引っ掻きながら唸っていた。

見たことのある顔だ。

そりゃそうだ、御近所なんだから。

・・・・そう、彼は私の近所に住んでいる人だ。名前までは知らないが。

話したことはないし、向こうも私のことは知らないはずだ。

近所とはいえ、頻繁に会うわけでもなく、何度かたまたま見かけたことがあるだけ。

もともと人の顔を覚えるのは得意じゃないし、頻繁に会うわけでもない。なのになぜすぐにわかったのか、それはとても簡単な理由。

彼は六人兄弟で、しかも六つ子なのだ。

数回しか見たことが無くても、同じ顔が六つも並んだ状態を見かければ、印象に残るのは当然だ。

といっても、彼が六つ子のうちの何番目なのかはわからないし、みんなと見分けもつかない。とりあえず、いつも赤い服を着ているので、赤い人として覚えている。

本が好きな私は、普段から本屋に入り浸っている。でも、赤い人と本屋で会ったのは初めてのことだった。時々緑の人が本屋にいるのを見かけたことはあったけど。

「どこにあんだよ・・・わけわっかんねぇ・・・。本多すぎだろ・・・」

どうやら、目当ての本の場所がわからずに困っているらしい。

まぁ、無理も無い。この本屋はここらへんでもかなり大きいところだから、本の数がとてつもなく多い。普段来ない人なら、この中から一冊の本を探すのはとても大変なことだろう。

「なんでこういう時にかぎって混んでるんだよ・・・ちくしょう・・」

レジのほうを見てみると、お客さんが並んでいて、店員さんは忙しそうにしていた。これでは本の場所を聞きたくても聞くことができない。

「・・・・・はぁ・・・」

赤い人は、再び溜息をつくと、必死に本を探していた。

普段の私なら、絶対に話しかけなかっただろう。顔は知っていても、話したことも無い男性なのだから。でも、この時の私はどうかしていた。

彼に、声をかけてしまった。それが後々面倒なことになるなんて、この時の私は知りもしなかった。

「あの・・・・・・」

悩む彼に、そっと声をかける。

「何か・・・・・お探しですか?」

私の声に反応し、きょとんとした顔で、彼は振り返った。
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