ナンバカ夢 長編
□19.小さな溝
1ページ/3ページ
猿門side
俺は今、医務室で一人待たされていた。
89番の診察の時は、基本的にいつもそうだった。診察の時は俺はついて来なくていい、そこで待っているように、と言われるのだ。
今日の診察はやけに時間がかかっていた。
もしかして...昨日の組手が原因だったりするのだろうか...?
少し心配に思ったが、『なぜそこまであいつを心配してんだよ俺!』と心の中で叫び、他のことを考えようとした。
だが、特に何も思いつくこともなく、余計にモヤモヤしてしまっただけだった。
「...待たせてすまない。」
しばらくすると、89番が戻ってきた。翁さんに会釈をし、医務室の外に出る。
「...大丈夫なのかよ...?」
「...ぁぁ。」
89番は俺から目を逸らして答えた。
......はぁ。
昨日の組手が原因なのかはわからねぇが、こいつとの間に...なんか...こう....溝?みたいなものができてしまったように思える。
もともとあまり話すことは多くはなかったが、今日は特に話さないし、目すら合わせてこない。
......なんなんだよ...。
沈黙が続き、ただ歩いていた。
「...主任。」
すると突然、89番に声をかけられる。
「...何だ?」
89番はしばらくの間、返答しなかった。
そして、恐る恐るといった感じで、口を開いた。
「...今日もまた...組手の相手をしてくれないか...?」
「......。」
「今日は...今日は昨日のようにはならない!」
わずかにだが、声が震えていた。
「......今日は58番とやる約束をしてんだ。」
本当は昨日58番と相手をする予定だったのだが、昨日は89番と相手したからな...。
今日は58番とやってやらねぇと...。
「...そうか...。」
89番は肩を下げた。
「ならば...明日...明日ならいいか?」
「...暇だったらな。」