-short story-

□君について
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僕は、君についてどれだけの事を知っているのだろう。


相変わらず窓際の席に座って窓の外ばかりを眺めている君の背中を見て、なぜかそんな疑問が浮かんだ。


そして、僕はその答えを探すべく、僕の記憶の中に存在する君を思い始めた。


初めて出会った時、君はボロボロに傷つきながらも、父さんの命令を全うしようとしていた。


これは僕の予感だけど…


父さんは、いつか綾波を裏切るんじゃないだろうか。


いや、既に裏切っているのかも知れないし、もっと言えばそもそも綾波の事を見ていないのかもしれない。


そして、もしいつかそのことに綾波が気付いたなら…綾波も父さんを裏切るんじゃないだろうか。


だけど…父さんを裏切ってまで綾波が誰かの為に、何かをするだろうか。


例えば…僕の為に、何かをしてくれるだろうか。


次に会ったのは僕がトウジに殴られた時だった。


君は僕の憂鬱を見透かしているかのような瞳をして、僕を見下ろしていた。


君に叩かれた頬の痛みに、少しの怒りと大きな妬みを抱いた。


だけど、何処かで少し、懐かしさのようなものをその掌に感じていた…


その次は最悪だった…


NERVのIDカードを届けに行った時、君は裸だった。


その裸を見て一瞬でも「美しい」と感じた僕はバカなのかもしれない。


恐らく、あれが同居人の赤毛の少女だったら、僕は生きていられないだろう…


だけど、君はそんなこと気にも留めずに、ただ父さんの眼鏡だけを大事そうに抱えた。


綾波、それは僕にとって二通りの嫉妬だったんだよ。




そして、月灯りの下で君は僕に「さよなら」と言い放った。




あの時の僕にとって、その言葉は何よりも恐ろしい言葉だったんだ。


すべてが終わった後で僕は君の手を取って激しく泣いた。


綾波、君は初めて笑ってくれたね。


あの笑顔を見たとき、僕は君から逃げることが出来なかった。そして逃げようとも思わなかったんだ。


あの笑顔は、僕がこれまで出会ってきた人のどんな笑顔よりも、作り笑いよりもヘタクソで、それでいて一番美しい笑顔だった。




******




相変わらず君は窓の外ばかりを眺めている。


ねえ、綾波


君にはその窓の外に何が見えているんだい?


もしも君が運命を見ているのなら


もしも君が未来を見ているのなら


そこに…君の隣に…


僕はいるかい?
いてもいいかい…?




「綾波…」




「なに…?」




怪訝そうな顔をして振り返った綾波と視線が合った。


いや、綾波だけじゃない…
クラスの皆の視線が一斉に僕に注がれていた。


しまった、心の声をつい呟いてしまった…




「…いや…あの…何でも……今日はいい天気だね!あはははっ!」


「……そうね」




トウジ、ケンスケ、委員長、アスカを除いたクラスの皆は、何事もなかったかのように教科書に視線を戻した。


綾波もまた、視線を窓の外へと移した。


先生の話が再開される。


いつものつまらない日常だった。それも、一瞬とはいえ僕に視線が注がれ恥をかくというオマケつきの、つまらない日常。


それでも、僕はとても幸せだった。


「そうね…」とだけ言った君が少しだけ、ほんの少しだけ笑ってくれたから。




(今日はいい天気だ。)










-END-

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