-short story-

□似て非なるもの
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PVの撮影を終え、私はホテルへと向かっていた。

雨が降っていたが、何だか街を歩きたい気分だったのでマネージャーに話し、私だけ徒歩での移動になった。

傘も持っていないのに、どうして街なんて歩きたいと思ったんだろう…。

不思議な気持ちだな、と、どこか客観的な自分が可笑しかった。

コンビニに入り、ビニール傘と玲奈ちゃんへのお土産を購入。

(言うまでもなくメロンパンだ)


早く玲奈ちゃんの喜ぶ顔が見たい、なんて思ってコンビニを出た瞬間、事件は起きた。




「…おいっ!!…アイツ、珠理奈じゃね!?」


「マジ!?…やべーよ本物じゃん!!」


「しかも、一人…!?」




しっかり会話が聞こえてきて、私はありありと身の危険を感じた。

見るからにチャラチャラしたヤンキー風の男が3人。

それに対して私は一人。警備の人もマネージャーもいない。

私は自分の軽率さを呪った。




「おーい!!お前、松井珠理奈だろっ??」

「………」


「ちょっと俺たちと遊ぼうぜ!!」


「…だ…めです…」

「ダメな訳無えだろ!?…行くよな!!」


「や…ですっ!!」


「いちいちうるせえなぁ!!どっちみち逃げらんねぇよ!!」




汚い笑顔を浮かべて
全員が近づいてくる。

すっかり取り囲まれている。

怖い、

怖くて、声が出せない。

助けて、

嫌だ、

玲奈ちゃん、助けて!!




「…あははははっ!!!!」


「ぐあぁぁッ!!」




ドンッ、という
鈍い音がして
3人の内の一人が
地面に崩れ落ちた。



「…誰だ!?」


そこには、私の求めた人…大好きな玲奈ちゃんが立っていた。

それも、花と竜をしつらえた緑色のスカジャンを着て。

爪を噛みながら、奇妙な微笑みを浮かべて。




「…て、テメェ!!」

「ねぇ…怒ってる…??」


「ざけんなァ!!…オラァ!!」


「玲奈ちゃん!!」


私は思わず目を伏せてしまった。

だって、あんなカリカリでもやしっ子の玲奈ちゃんに喧嘩は死ぬほど、寧ろ、死んでも似合わないからだ。


ドンッ!!


人が殴られる音と
地面に倒れ込む音が
2度、聞こえた。

恐る恐る目を開けると、そこには3人のヤンキーをいとも簡単に返り討ちにした玲奈ちゃんがいた。


私は現実を理解するのに随分と時間を要した。






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